『ぼんやり考え事』が心の不調につながることを世界初の実験で証明

どんな時に、ふとした考えごとがネガティブな「ぐるぐる思考」に変わってしまうのか?
答えを得るため研究者たちは大学生の参加者55人に協力してもらいました。
最初に参加者は、「普段から過去のことを繰り返し考えて後悔しやすいか」「まだ起きていない未来のことを心配しやすいか」「普段どれくらい不安や憂うつな気持ちを感じているか」をアンケートで答えました。
次に、少し変わった実験をしました。
実験では、参加者がパソコンの画面に次々と表示される数字を見ます。
その数字は1から9まであり、「3」という数字が出た時だけ「何もしない」、それ以外の数字が出た時は「キーを押す」というとても簡単な作業を繰り返します。
これを延々と900回も繰り返すため、参加者はだんだん退屈してきます。
この退屈な状態では、自然と心が他のことを考え始める「マインドワンダリング(ぼんやり思考)」が起こりやすくなります。
実験の途中では、ランダムに「今、あなたは何を考えていましたか?」という質問が画面に表示されます。
この質問に対して参加者は、「課題に集中していた」「自分で意識して他のことを考えていた」「いつの間にか別のことを考えていた」のどれかを選んで答えます。
さらに、もし考え事をしていたならば、「それは楽しいことか嫌なことか」「過去のことか未来のことか」「具体的か漠然としているか」なども答えました。
こうして得られたデータを詳しく分析すると、興味深いことがわかりました。
まず、自分では意図していないのに頻繁に考えごとをしてしまう人ほど、ネガティブな考えに引き込まれやすい傾向がありました。
特にそうした人は、過去の失敗や嫌な思い出を何度も思い返す「くよくよ思考(反すう)」をよくしてしまい、その結果として、未来の不安や心配事も増えていったのです。
こうした過去への後悔から未来への心配という「ぐるぐる思考」が多い人ほど、日常的に不安や抑うつを強く感じることも明らかになりました。
簡単に言えば、「勝手に浮かんでくる考えごと」は、過去をくよくよ後悔する気持ちを引き起こし、それが次に未来を不安に思う気持ちを高め、最後に心の状態を悪化させてしまうという流れになっていたのです。
さらに興味深いこともわかりました。
考えてしまう内容が特にネガティブな場合は、過去のくよくよ段階を飛ばして、すぐに未来への不安や心配へとつながることが多かったのです。
つまり、ふと浮かぶネガティブな考えは、直接的に心配や不安に結びつきやすいということです。
一方で、意識的に自分から好きなことや楽しいことを空想する場合は、全く違った影響を与えていました。
自分から意識的に行うマインドワンダリングでは、不安や憂うつとの関連性は低く、むしろ心配を抑える方向に働く可能性があることも示唆されました。
つまり、ぼんやりと考えごとをすること自体が悪いのではなく、「勝手に浮かんでしまうネガティブな考え」が、心にとっての負担だったのです。
今回の実験で、「意図しないぼんやり思考が、どのように心の不調につながっているのか」という仕組みがはっきり見えてきました。