「人間慣れ」と「危険回避」、個体差と生き残り戦略の多様性
興味深いのは、同じ種でも生息地や個体によって反応がまったく異なる点です。
たとえば、ザイオン国立公園に生息するミュールジカやエルク(ワピチ)は、人間のいるエリアを好む傾向がありました。
これは「人間がいる場所には捕食者が近寄らない」という“人間シールド効果”を活用していると考えられます。
要するに、うまく人間を利用して生き延びようとしているのです。
また、山岳地帯に暮らすシロイワヤギは、登山者の尿に含まれる塩分を求めて人の通るトレイル周辺に集まることもあります。
こうした例では、人間の存在が“資源”として認識されているともいえます。

ただし、すべての動物が人間に慣れるわけではありません。
研究では「人間との接触が多い個体ほど、公園閉鎖時に行動を大きく変える傾向がある」と報告されていますが、それは「慣れ」によるものだけではありません。
逆に「人間を脅威と認識しすぎている個体」は、閉鎖中でも警戒を解かなかったのです。
このように「人間は危険かもしれないが、うまく使えば役に立つかもしれない」という複雑なリスク・リターンの天秤を、動物たちは日々の行動の中で取っているようです。
この研究は、私たち人間が“いない”ことが、どれほど動物の世界に影響を与えているかを科学的に可視化した貴重な成果です。
そして動物たちが単に人間を怖がっているだけでなく、場所ごと、個体ごとに「学び」「判断」していることが明らかになりました。
国立公園は観光地であると同時に、動物たちの貴重な生息地です。
人と自然の共存を目指すなら、「どこを人間が使い、どこを動物に残すか」というゾーニングの工夫が、これからますます求められていくでしょう。
人間に依存しがちな鳩とかだとどうなるのかはちょっと気になりますね。
寂しいとか思ってくれたりするのでしょうか。