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人類は「自然を表現する言葉」を急速に使わなくなっている / Credit:Canva
humanities

「自然を表現する言葉」の使用頻度が低下している【200年で60%以上減少】

2025.08.26 11:30:38 Tuesday

人は自分が関心のある話をよくするもので、それは使用単語の頻度にも影響します。

たとえば恋人と別れたばかりの人は「寂しい」「悲しい」といった言葉を多く使うでしょうし、新しい趣味を始めたばかりの人は、その趣味に関する言葉をやたらと口にするものです。

つまり、私たちの“言葉遣い”には、どんなことに心を向けているかが素直に表れているのです。

では、もし私たちがある言葉をほとんど使わなくなったとしたら?

それは、その対象に関心が薄れているということではないでしょうか?

イギリス・ダービー大学(University of Derby)の心理学者マイルズ・リチャードソン氏が行った最新研究では、まさにこの発想を出発点に、人類が“自然とのつながり”をどのように失ってきたのかを検証しました。

その結果分かったのは、私たちの間で「自然を表現する単語」の使用頻度が低下しているという事実です。

本研究は、2025年7月23日付の『Earth』誌に掲載されました。

The Words Humans Use to Describe Nature Are Vanishing, Study Finds https://www.sciencealert.com/the-words-humans-use-to-describe-nature-are-vanishing-study-finds
Modelling Nature Connectedness Within Environmental Systems: Human-Nature Relationships from 1800 to 2020 and Beyond https://doi.org/10.3390/earth6030082

200年間で書籍から「自然に関する単語」が60%も減っている

ここ数十年、都市化とテクノロジーの進展により、人々の自然離れが進んでいるといわれています。

かつては野原で遊んだり、川に魚を見に行ったりするのが当たり前だった子どもたちも、今ではゲームやSNSの世界に夢中になり、自然との接点は急激に減少しています。

このような背景から、心理学や環境学の分野では「自然とのつながり(nature connectedness)」という概念が重視されるようになってきました。

これは、人がどれだけ自然を愛し、興味を持ち、心理的に結びつきを感じているかを表す指標です。

リチャードソン氏は、この「自然とのつながり」が時代とともにどう変化してきたのかを明らかにするために、まずある大胆な方法を取りました。

それは、「自然に関する単語」の出現頻度を歴史的に追跡するというアプローチです。

使われたのはGoogle Books Ngram Viewerというツールで、1800年から2019年までに出版された数百万冊におよぶ書籍の中から、「川(river)」「草原(meadow)」「小枝(twig)」「小鳥のくちばし(beak)」「海岸(coast)」など28の自然関連単語の出現頻度を分析しました。

一方で、動物や植物の種名のように、あまりに専門的・技術的すぎる語彙は排除しました。

というのも、これらの語は生態系の変動や識別ガイドの流行など、言語以外の要因に左右されやすく、心理的なつながりの指標としては適さないと判断されたためです。

そして分析の結果、1800年以降、自然に関する単語の使用頻度は着実に減少しており、特に1850年以降の産業化・都市化の進行とともにその減少は加速。

全体で60%以上の減少が確認されました。

つまり人類は、この200年の間に「自然について語らなくなった」のです。

それはすなわち、自然に関心を持たなくなり、視界からも心からも遠ざけてきたことの証拠であると考えられます。

しかしこの分析はあくまで「言語」からのアプローチであり、実際に人間の心理的な自然離れと一致しているかどうかは明らかではありません。

そこでリチャードソン氏は、次なる手法へと踏み込みます。

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