親が「自然とのつながり」を子供に伝えることができていない
第2のアプローチでは、「自然とのつながり」が社会全体でどう変化したかを、ある計算モデルを用いてシミュレーションしました。
これは、仮想空間上に人々(エージェント)を配置し、それぞれが住んでいる場所の自然環境、親からの影響、感受性などの要素をもとに、心理的な“自然とのつながり”がどう変化していくかを計算するものです。
このシミュレーションは1800年から2020年まで、実に220年間を再現しました。
モデルでは、いくつかの条件が設定されています。
まず、都市化率は歴史的データに基づいており、1810年には7.3%だったものが、2020年には82.7%にまで増加しています。
また、家庭環境などを通じて親の「自然とのつながり」が子どもにも引き継がれる点も考慮されています。
その結果、このモデルが導き出した自然とのつながりの減少曲線は、先ほどの自然語の頻度データと95%以上の一致率を示したのです。
つまり、人々の“心の中の自然”の変化と、文化的言語の変化は、見事に重なっていたことになります。
さらにこのシミュレーションでは、「なぜ自然とのつながりが減少したのか」という原因にも迫っています。
最大の要因とされたのは、都市化や環境悪化そのものではなく、親から子への“自然のつながり”の伝達が途絶えたことでした。
自然環境が減少したことで、人々が自然を見なくなり、自然について語らなくなりました。
そして自然をあまり知らないまま育った親が、次の世代にも“自然とのつながり”を伝えられなくなったのです。
これら、世代を超えて蓄積され、自然との断絶が“固定化”していったといえるでしょう。
また、モデルは未来予測も行っています。
もし今から劇的な政策介入がなされ、子どもたちの自然教育が充実し、都市に自然が再び増えれば、2050年までは引き続き自然とのつながりが減少し続けますが、それ以降では回復に向かう可能性があることも示されました。
結局のところ、自然とのつながりは、一朝一夕に戻るものではありません。
しかしそれは、人間と地球の未来のために“取り戻すべきもの”であると、リチャードソン氏の研究は強く訴えているのです。