「女王アリが別種のクローンオスを“産む”」驚異の仕組み
ラボでの観察と詳細な遺伝子解析が、驚くべき事実を明らかにしました。
隔離されたMessor ibericusの女王アリから、なんと2種類のオスアリが“産まれるのです。
ひとつは自分と同じ種のオス(体が毛深いタイプ)、もうひとつは「Messor structor」とまったく同じ遺伝子を持つ“別種”のオス(毛がほとんど無いタイプ)。
どちらも女王アリが産んだ卵から生まれた個体ですが、両者は遺伝的にも明確に区別できました。
特に「Messor structor型」のオスは、核DNAは完全にM. structorそのものですが、ミトコンドリアDNA(母系遺伝)は女王(M. ibericus)のものでした。
これは、女王アリが「自分の卵から、M. structorの精子のみを用いて“他種のクローンオス”を生み出している」ことを示唆しています。
卵の中から女王自身の核DNAを除去し、過去に体内に保存していたM. structorの精子、またはすでに自分の巣内で維持してきたクローンオスの精子のDNAだけが次世代オスとして発現するのです。
こうして産まれた“クローンオス”は、さらに女王アリと交尾し、雑種の働きアリを作るための「精子供給源」として使われます。
この仕組みにより、Messor ibericusの女王は「自分の巣の中だけで、M. structorオスのクローンを維持し続ける」ことが可能となり、周囲に別種のコロニーがいなくても、雑種の働きアリを安定して生み続けることができます。
この「異種のオスを自ら生み、雑種を作る」という現象は、これまで動物界では報告されたことがありませんでした。
研究チームはこの現象を「xenoparity(異種産生)」と名付けています。
ちなみに、この方法で作り出された別種のクローンオスは、野生のM. structorオスに比べて形態が異なり(スリムで毛が少ない)、遺伝的多様性も低くなっており、家畜化にみられる特徴とよく似た傾向を示しています。
今回の発見は、一部の科学者を困惑させています。
「そもそも種とは何か」という概念すら揺るがしかねないものなのです。
もはや何でもあり、アリさんすごい。
Messor ibericus と Messor structor を単純に別種として扱うことはできないでしょう。生殖を介して連合を形成している species complex ということになるでしょう。
非常に興味深い。
自らのミトコンドリアは提供するが、DNAは提供しない。
新しいタイプの家畜というか奴隷というか・・・。