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ASD発症率の高さは人類が知性を進化させるための代償だった可能性 (2/2)

2025.09.14 21:00:05 Sunday

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進化の代償として生まれたASDのリスク

「L2/3 ITニューロン」という神経細胞は、いわば「情報の中継点」として、私たちが言葉を理解したり、相手の気持ちを推し量ったりするときに大きな役割を果たしています。

研究チームは、この細胞が急激に進化したことで、人間は高度な思考や複雑な社会性を獲得できた可能性があると指摘しています。

しかし同時に、その変化は「神経回路のバランスを取りにくくする」側面も持っていた可能性があるのです。

の主要なネットワークの動作が急速に進化し繊細な動作をするようになった結果、人類の認知機能は他の動物と比べて大幅に向上しましたが、それによって一部の人は情報処理がうまくかみ合わず、社会的なやりとりの難しさや行動の反復などASDの特徴が現れやすい素地を作り出したと考えられるのです。

さらに研究者たちは、ゴリラを比較対象に加えて「ヒトの進化の枝で本当にこの変化が起きたのか」を検証しました。

結果として、L2/3 ITニューロンの遺伝子発現の変化はヒトに特有であることが示されました

また、ヒトの脳細胞を試験管内で再現した脳オルガノイドを使った実験でも、同じような遺伝子発現の変化が再確認されました。これは偶然の産物ではなく、ヒトの進化の過程で積極的に選び取られた変化だった可能性を示しています。

つまり、人間は大脳皮質の特定の細胞を“進化の特急レーン”に乗せることで、言語や高度な社会性といった知性を手に入れました。しかしその代償として、ASDのリスクが高まりやすい脳の特徴を抱えることになったと考えられるのです。

ASDは人類が人類であるための副産物だった

今回の研究は、自閉スペクトラム症(ASD)を単なる「遺伝の不具合」として見るのではなく、人類が特別な脳を進化させる過程で生まれた副産物としてとらえる視点を与えてくれます。

人間は言語を使い、社会をつくり、複雑な文化を築くことができる存在です。

その力を可能にしたのは、脳の中で特別な進化を遂げた神経細胞でした。

しかしその進化は、同時にASDのリスクを高めることにもつながったのです。

ASDは不思議なことに世界中で一定の割合で存在し続けています。

それは、人間の知性を支える「もうひとつの側面」なのかもしれません。

私たちの社会にASDが広がっている理由は、人類が人類であるために欠かせない脳の進化と深く結びついていることを、この研究は教えてくれます。

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