“猫の壁”突破がもたらす未来

今回の発見で「量子の不思議は意外に粘り強い」ことが明らかになりました。
今回扱った質量帯でも量子の予測と整合し、巨視性の指標で過去最良を更新しました。
これは、物質が巨大化するとどこかで量子論が崩れるかもしれない、といった新しい仮説(例えば自発的な波動関数の収縮モデル)に対して強い制約を与える成果でもあります。
言い換えれば「量子力学はまだ負けていない」ということであり、タンパク質〜タンパク質級に達しており、小型ウイルス級は今後の目標とされています。
今回の条件では量子モデルと整合し、改変仮説の広い範囲を排除しています。
論文では、本実験が「マクロ現実主義的修正(MMM)」の広い範囲を排除すると述べています。
今回達成した巨視性15.5という数値は、こうした代替理論を排除する上で史上最も強力な証拠となりました。
もっとも、7000個という多く思える原子たちであっても、そのサイズはナノレベルでありは肉眼で見える物体とは言えません。
実験も極めて高度に管理された真空・低温環境で行われており、日常的な条件で巨大な物体を二重人格状態にするのはまだまだ先の話です。
それでも、この成果が持つ意義は揺るぎません。従来できなかった質量帯で量子干渉を示した事実そのものが、科学のフロンティアを一歩押し広げたからです。
研究チームは既に次の段階も視野に入れています。論文によれば、装置を改良して粒子の速度を毎秒25メートル程度まで落とせれば、100万ダルトン(マクロウイルス級)の粒子でも量子的な干渉と古典的直進を明確に区別できるだろうと予測しています。
さらに、縦型化などの拡張で、質量とコヒーレンス時間を各100倍、結果として「到達可能な巨視性」を最大6桁押し上げ得ると述べています。
それが実現すれば、巨視的量子状態を地上実験で今よりはるかに大きなスケールで検証できることになり、重力の量子的性質(量子重力理論)や等価原理(すべての物質が同じように重力に従うか)のテストなど、壮大なテーマへの扉が開かれるかもしれません。