画像
Credit:Canva
space

最新の宇宙論は宇宙が誕生と死を繰り返し「今が5回目」だと示唆 (2/3)

2025.09.26 18:00:50 Friday

前ページ私たちは「5度目の宇宙」に生きている?

<

1

2

3

>

最大であと10回—宇宙の残りサイクル数を予測した方法

あと8回—宇宙の残りサイクル数を予測した方法
あと8回—宇宙の残りサイクル数を予測した方法 / Credit:川勝康弘

では、研究チームはどうやって「宇宙のサイクル数」を数え上げたのでしょうか?

鍵となるのは、宇宙背景放射や銀河分布など、現在の宇宙に刻まれた情報から「宇宙の履歴」を逆算するという発想です。

QMMモデルでは、各サイクルで一定量の情報(インプリント・エントロピー)が宇宙に書き込まれます。

そのため、今の宇宙に蓄積された情報量を調べれば、「これまで何回サイクルを経たか」が推定できることになります。

研究チームは、宇宙マイクロ波背景放射の精密観測、バリオン音響振動、宇宙年代測定、銀河の大規模構造データなど最新の宇宙観測データから、現在の情報インプリント量を推定しました。

さらに、修正されたフリードマン方程式(宇宙の膨張を支配する方程式にインプリントの効果を加えたもの)を数値的に統合し、過去から未来への宇宙サイクルの推移をシミュレートしました。

その結果、このモデルが現在の宇宙を再現するためには、少なくとも過去に約4回(3.6±0.4回)のサイクルが完了している必要があることがわかりました。

また、ヒルベルト空間セルの有限容量(情報の書き込み限界)まで、あとどれくらい余地があるかを評価すると、理論的な上限では最大約9.7回、実効予測としては約8.5回程度のサイクルが残り得るとされています。

さらに不確定性を含む予測では、宇宙はあと約7.8回の膨張・収縮サイクルを経て「最終サイクル」に達する可能性が示唆されました。

要するに、今の宇宙は「5代目」前後であり、最終的には「およそ12前後のループ」で循環宇宙は終了する計算になります。

残りのサイクルが完了すると、時空の情報容量(エントロピー)が完全に飽和し、それ以上バウンスは起こらなくなります。

つまり、新たなビッグバンが発生しなくなり、宇宙はもはや縮んで再生することなく、ゆっくりと膨張を続ける終幕フェーズに入ると考えられます。

この推定が正しければ、宇宙の「情報的な年齢」は約620億年に達し、現在知られている138億年という年齢はその一部に過ぎないことになります。

モデル上は、無秩序の蓄積ペースなどからこうした値が導き出されており、数字のインパクトに思わず息を呑む内容です。

さらにこの研究では、各サイクル間で「何が引き継がれるか」についても考察されています。

QMMモデルでは、ビッグバンで前の宇宙の痕跡が完全消滅するわけではなく、情報のゆらぎ(インプリント場)として新宇宙に持ち越されるとされます。

簡単に言えば、前の宇宙で蓄積されたゆがみやムラが、次の宇宙のスタート時点に反映されるということです。

シミュレーションによれば、この情報ゆらぎは新生宇宙で過剰密度(情報の井戸)として振る舞い、重力の作用でどんどん成長します。

その結果、一定の臨界値を超えた部分では、原始ブラックホール(PBH)が形成されることが示されました。

特に、ゆらぎスペクトルの傾きパラメータを調整すると、太陽質量程度のPBHが多数できて暗黒物質の候補になり得ることや、さらにスペクトルを青(小スケール強め)にすると月質量級以下のPBHが生成して、宇宙の暗黒物質の大部分を占めるケースもあると報告されています。

興味深いことに、この場合でも現在の観測(重力マイクロレンズ効果による検出制限)に矛盾しない範囲でPBHを作れるとされます。

つまり、「宇宙が何度も繰り返す」という大胆な仮説が、逆に暗黒物質の正体=多数の原始ブラックホールというシンプルな解を導く可能性があるのです。

実際、研究では各サイクルで原始ブラックホール(PBH)が約100万個形成されると予測され、これが蓄積されて宇宙全体で莫大な数のPBH連星合体が起こる計算になります。

またPBHの存在は、宇宙初期(赤方偏移z>10)に予想以上に大きなブラックホールやクエーサーが見つかる問題に対する自然な解決策にもなり得ます。

大質量星の暴走成長なしに説明が難しかった超高赤方偏移のクエーサーも、各サイクルで種PBHがばらまかれると考えれば「思ったより早く巨大小銀河核が存在していてもおかしくない」というわけです。

情報ゆらぎが残る影響は他にもあります。

たとえば、ブラックホールの情報パラドックス(ブラックホールに落ちた情報は消えるのか?)について、このモデルは「情報は消えず、時空そのものに記録される」と主張しています。

ブラックホールが蒸発しても、かつて飲み込んだ物質の情報は周囲の時空セルに刻まれて残るため、パラドックスは解消されるという考え方です。

さらに、このインプリント場(情報ゆらぎ)は宇宙初期のインフレーション後の宇宙にも微妙な痕跡を残し、重力レンズ効果や宇宙背景放射のゆらぎパターンにCMBのスペクトル歪みなどを与える可能性が予測されました。

これらの特徴は、将来の観測ミッション(次世代CMB観測計画や重力波望遠鏡、銀河サーベイ)によって検証可能です。

研究チームは「この仮説は絵空事ではなく、近い将来に実験的なテストが可能だ」と述べています。

総じて今回の結果は、宇宙が有限回のサイクルで終焉を迎える可能性と、その舞台裏で情報がどのような役割を果たしているかを示唆するものでした。

それは同時に、暗黒物質問題や宇宙論上の情報問題への挑戦的な解答でもあります。

次ページ宇宙が繰り返すなら、私たちはどうなるのか?

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

宇宙のニュースspace news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!