宇宙が繰り返すなら、私たちはどうなるのか?

今回の研究は、宇宙論と量子情報理論を結びつける大胆なアプローチによって、「宇宙はいくつサイクルを繰り返せるのか?」という壮大な問いに体系的な定量推定を示しました。
最新モデルによると、私たちの宇宙はすでに約4回のビッグバンとビッグクランチを経験しており、あと8回ほど同じサイクルを繰り返した末に最終的な膨張段階に移行する可能性があります。
この数字は、宇宙が循環しつつも有限の寿命しか許されないかもしれないという点で、非常に刺激的です。
宇宙論の枠組みが変われば、私たちの存在への見方も変わるでしょう。
この研究が正しければ、宇宙は単なる偶然の一度きりの出来事ではなく、情報を蓄積しながら進化するシステムだったことになります。
そうなれば、「なぜこの宇宙に生命が存在するのか」「物理定数はなぜこの値なのか」といった問いも、前のサイクルからの情報継承という観点で議論できるかもしれません。
さらに実利的な面でも、暗黒物質の起源やブラックホール情報の行方といった難問に答えが出ることで、将来的に新しい物理法則やエネルギー源の発見につながる可能性もあります。
例えば原始ブラックホールが暗黒物質なら、その観測や利用法が研究されるでしょうし、ブラックホールから情報を取り出せるなら量子情報技術にブレークスルーをもたらすかもしれません。
実際、QMM理論の一部は量子コンピュータのエラー訂正にも応用できることが示されており、理論物理が情報工学へ寄与するという予想外の成果も生まれています。
研究チームは試験的に量子計算機上で「痕跡演算」を実装し、従来より高精度に量子状態を復元することに成功しました。
このように「宇宙は記憶する」という発想は、純粋理論にとどまらない広がりを持っています。
もっとも、このモデルはあくまで現時点では理論的な仮説です。
観測的に裏付ける証拠はこれから探していく必要があります。
例えば、宇宙背景放射に前サイクル由来の特徴的なパターン(μ歪みなど)が残っているか、重力波バックグラウンドに情報ゆらぎ起源の信号が混じっていないか、といった点は今後数十年で明らかになっていくでしょう。
さらにいえば、この仮説が正しいとしても「最初の宇宙」はどこから来たのかという疑問は依然として残ります。
QMMのアプローチがこの指摘を乗り越えられるかは、今後も専門家の間で議論が続いていくでしょう。
とはいえ、この研究がもたらしたものは大きいといえます。
あえて言うなら、宇宙そのものを「計算する存在」と見立てた発想の勝利でしょう。
宇宙論に情報という概念を持ち込むことで、従来はバラバラに考えられていた問題(宇宙の始まり、暗黒物質、ブラックホール情報など)に一本の筋を通すことに成功したのです。
補足ですが、QMMという考え方は宇宙論だけでなく、量子コンピュータのエラー訂正への応用研究にも登場しています。
QMMの応用研究
実はこのQMMという概念、宇宙論だけでなく量子コンピュータのエラー訂正への応用研究にも登場しています。研究チームは別途、QMMを用いた誤り耐性手法を提案しており、ハードウェアへの実装実験では繰り返し符号との組み合わせで論理量子ビットの忠実度(計算結果の正確さ)が94%に向上したと報告しています(PR段落2)。宇宙の「量子メモリ」発想が地上の量子計算にも応用できるとは興味深いですが、これはあくまでPR情報であり、本記事の宇宙論モデルとは直接の関係はない点にご注意ください。
宇宙の「量子メモリ」という発想が地上の量子計算にも応用できるというのは興味深い話ですが、これはあくまで応用研究の例であり、本記事の宇宙論モデルとは直接の関係はありません。
このような統一的な視点は、今後の宇宙論研究に新たな道を拓く可能性があります。
また論文やデータは公開されており、他の研究者が計算コードやシミュレーション結果を検証できる環境も整っています。
科学の世界では仮説は厳しく試されて初めて評価が定まりますが、この壮大な仮説も例外ではありません。
ビッグバン仮説の「ビッグバン」という言葉も、もともとはこの仮説を揶揄する意味で生まれたという歴史があることも忘れてはいけません。
無限に思える宇宙でさえ有限のサイクルを生きているとしたら、その事実を知ること自体が私たちの宇宙観に新たな深みと謙虚さを与えてくれるでしょう。