なぜ月面で「水を含む隕石」が残ったのか
中国科学院(CAS)の研究チームは、サンプルからオリビンを含む複数の破片を樹脂で固め、電子顕微鏡や質量分析装置で徹底的に調査。
その結果、7個の破片が「地球産」でも「月産」でもなく、CIコンドライト型隕石の化学組成と完全に一致していることが判明しました。
これらの破片は、ガラス状の基質の中にオリビン結晶が埋め込まれた独特の構造を持っており、激しい衝突で一度溶けてから急冷された痕跡を残しています。
特に鉄・マンガン比や酸素同位体比などが、月や地球の物質とは明らかに異なっていたのです。
ここで最大の謎は「どうして月面でだけ、これほど壊れやすい物質が保存されたのか?」という点です。
月には大気がないため、隕石は燃え尽きることなく、直接表面に衝突します。
しかし、その衝突速度は秒速20キロ以上に達することも多く、本来なら蒸発したり、粉々になって宇宙へ飛び散るはずです。
それでもごく一部は、運良く溶融後に急冷・固化し、ガラスとともに内部に「水の痕跡」をとどめたまま、数十億年の時を経て保存されたと考えられます。
今回の分析では、月に残る隕石の3割近くがこのCIコンドライト由来の可能性があるという結果も示唆されました。
この物質は、太古の地球や月に「水」や揮発性成分をもたらした「運び屋」として、長く仮説が唱えられてきたものです。
つまり、月面の塵が、地球と月の水の起源をひもとく「タイムカプセル」になっていたというわけです。