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米価格の高騰を経験した子供は将来『低身長の肥満』になりやすい

2026.01.10 12:00:45 Saturday

私たちの生活は、気候変動、パンデミック、地域紛争といった世界的な出来事によって、常に予期せぬ影響を受けています。

特に近年は、これらの危機が複雑に重なり合い、食料の供給網が乱れ、食料価格が急騰するという問題が、世界中の家庭に重くのしかかっています。

最近の日本でも、主食である米価格の急騰が大きな問題となっていますが、食料品、特に主食の値段が上がると、日々の食卓から何を減らし、何を諦めるべきか、誰もが頭を悩ませます。

こうした経済危機に伴う食料価格の高騰は、特に成長期の子供たちの健康に大きな影響を与える可能性があります。

そこで、ドイツのボン大学(University of Bonn)開発研究センター(ZEF)の研究チームが、過去の大規模な経済危機を事例として、それが子供に与えた影響について分析を行いました。

彼らが着目したのは、1990年代後半に東南アジア諸国を襲った「アジア通貨危機」です。

当時、特にインドネシアでは通貨が急落し、主食であるコメの価格が地域によっては一時的に2倍以上に高騰するという事態が発生しました。

研究チームは、この危機によって幼少期に食料価格高騰の打撃を受けた子供たちが、成人後にどのような健康状態にあるかを約17年間にわたって追跡調査しました。

その結果、コメ価格の高騰という経済的ショックに晒された子供たちは、成人後も身長が伸びにくくなり、さらに大人になってから肥満リスクが有意に高まっていたのです。

またこの影響は家庭の貧困度よりも、住んでいる場所が都市部であることや、母親の学歴と関連が高かったという。

この研究の詳細は、2026年1月付けで科学雑誌『Global Food Security』に掲載されています。

Expensive food makes children fat https://www.uni-bonn.de/en/news/001-2026
Macroeconomic shocks and long-term nutritional outcomes: Insights from the Asian financial crisis https://doi.org/10.1016/j.gfs.2025.100900

経済危機の影響は短期で終わるのか?

過去に食料不足や飢饉といった深刻な食料危機が起きた際、子供の栄養状態が悪化し、短期間で年齢の割に身長が低い状態(専門用語:発育阻害/Stunting)が増加することはよく知られています。

しかし、金融危機のようなマクロ経済的なショックが、長期的にどのような影響を与えるかについては、まだ十分には解明されていませんでした。

ボン大学の研究チームは、1997年後半に始まり、インドネシアに大きな打撃を与えたアジア通貨危機に着目しました。

この危機によって、インドネシアの通貨は大幅に価値が下がり、米(コメ)の価格が1997年から2000年の間に地域により最大2倍近くまで高騰しました。

米はインドネシアの主要な主食であり、家計支出の大部分を占めています。

「この米価格の急激な上昇は、危機が去った後も、当時幼かった子供たちの健康に影響を与え続けているのだろうか?」

研究者たちの疑問は、この長期的な影響の有無にありました。

地域の米の価格差を利用した20年にわたる追跡調査

過去にも、アジア通貨危機が子供の栄養に与えた影響については、いくつかの研究が行われています。しかし、それらの先行研究では一貫した傾向は示されておらず、経済危機が子供の成長に長期的な悪影響を与えるという明確な確証は得られていませんでした。

ボン大学の研究チームは、以前の分析の主な問題点は、危機による食料価格の上昇が地域によって深刻度が異なっていたという重要な点を考慮していなかったためではないかと考えました。すべての地域やすべての子供が経済危機によって同程度の影響を受けたわけではないため、そのばらつきを無視すると、危機の影響を正確に捉えられない可能性があります。

そこで、今回の研究チームはインドネシア家族生活調査(IFLS/Indonesia Family Life Survey)のデータセットに着目しました。これは、インドネシアのさまざまな大学と協力してRAND研究所が実施した大規模な縦断的世帯調査で、1993年の初回調査から2014年まで、同じ世帯を長期間にわたって追跡し、個人や世帯の人口統計、健康、栄養状態が調査されていますが、今回の研究において重要なのは、それが地域ごとに詳細に分けて集計されていた点です。

特にこのデータには、米価格の上昇率が地域ごとに異なっていたという情報が含まれていました。

これによって経済危機の深刻度を分けて分析することが可能になったのです。

調査の対象となったのは、危機発生前の1997年時点で0歳から5歳だった約2,100人の子供たちです。

この時期の栄養不足は通常、発育阻害(低身長)やその他の発達障害につながる可能性が指摘されています。

彼らは、これらの子供たちをアジア通貨危機直後の2000年と、さらに成長して若き成人(17歳〜23歳)となった2014年の時点で追跡し、身体測定の結果を比較しました。

米価格が2倍になると「低身長」リスクが3.5%増加した

解析の結果、経済危機時に米価格の上昇率が高かった地域に住んでいた子供たちほど、栄養状況が悪化していたことが明確に示されました。

特に、慢性の栄養不良を示す最も一般的な指標である「年齢別身長Zスコア(HAZ/Height-for-Age Z-scores)」(その年齢の標準的な身長と比べて高いか低いかを示す指標)は、危機後に平均で0.135ポイント減少していました。

特に米の価格が100%(2倍)上昇した地域では、子供が低身長(発育阻害)になるリスクがそれ以外の地域より3.5%増加していました。

これらの結果は、米価格高騰と子供の成長不良に強い関連があることを示しています。

そしてさらに衝撃的だったのが、その影響が長期的に続くことが示されたことです。

成人しても残った「低身長」と「肥満」リスク

危機時に幼少期を過ごした子供たちを2014年に追跡したところ、彼らは成人しても、危機の影響をそれほど受けなかった子供たちと比較して、平均で0.65cm身長が低いという関連性が確認されました。

これは、幼少期に受けた栄養の剥奪によって、本来到達し得るはずだった身長の可能性が奪われてしまったことを示唆しています。

さらに興味深いのは、成人期の「肥満」リスクです。

危機時に3歳から5歳だった子供たちのグループでは、成人後の体格指数(BMI/Body Mass Index)が高くなり、肥満になる傾向が有意に高まっていました

ここで疑問が湧きます。

危機による栄養不足は「低身長」につながったはずなのに、なぜ成長した後に「肥満」になるリスクが高まってしまったのでしょうか? これは一見、矛盾しているように見えます。

そしてさらに興味深いのが、この影響を受けた子供は、貧困家庭だけではなかったという点です。米価格上昇の影響を受けたのが、貧困家庭ではないというのはどういうことなのでしょうか?

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