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米価格の高騰を経験した子供は将来『低身長の肥満』になりやすい (2/2)

2026.01.10 12:00:45 Saturday

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家庭の貧困状態よりも、都市部と母親の低学歴の影響が大きかった

「低身長なのに肥満」の謎:危機が変える家庭の食料戦略

この「低身長と成人後の肥満リスクの同時増加」という現象こそが、今回の研究の核心であり、経済危機の複雑さを示しています。

研究チームは、この現象の背景には、経済危機下での「家庭の食料選択の変化」があると考察しています。

家計が苦しくなると、各家庭は食料の支出を見直す必要に迫られます。

しかし、米はインドネシア主要な主食です。そのため、米の価格が上がっても、米の消費量自体を大きく減らすのは難しく、多くの家庭では米価格上昇分の支出増加を、他の栄養価の高い食品の買い控えで補った可能性が高いのです。

その際、多くの家庭は肉、魚、野菜、果物といったタンパク質やビタミン、ミネラルなどの重要な微量栄養素を多く含む食品の購入を減らし、安価でカロリーの高い食品(カップラーメンやハンバーガーなど)に頼る傾向が出てきたと考えられます。

その結果、子供たちは、生きるために必要なカロリーは十分足りているにも関わらず、成長に不可欠な微量栄養素が不足する、「新型栄養失調」のような状態(隠れた欠乏状態)が引き起こされたと考えられます

この栄養不足が、身長の伸び(線形成長)を妨げ、最終的な身長を低く抑えてしまいます。

しかし、カロリー摂取自体は維持されるか、または安価なカロリー源で補われるため、体重が増えやすい体質、つまり将来的に肥満になりやすい体質になってしまうと考えられるのです。

危機の影響が特に厳しかったのは、都市部と母親が低学歴の家庭

次に、危機の影響を最も強く受けたのは誰だったのかを見ていきましょう。

分析の結果、危機の影響は全ての層に均一に出ていたわけではありませんでした。

① 都市部の子供たち:

米価格高騰による成長の遅れは、農村部の子供たちよりも都市部の子供たちでより顕著でした。

これは、農村部の家庭が米を自家生産することで価格高騰の影響からある程度守られていたのに対し、都市部の家庭は食料のほとんどをスーパーで購入することに依存していたため、価格変動の打撃を直接的に強く受けたためだと考えられます。

② 低学歴の母親を持つ子供たち:

母親の教育水準が低い子供たちも、より大きな悪影響を受けていました。

これは教育水準の高い母親は、危機的状況下でも、家計の計算や、栄養に関する知識をきちんと集めて献立を考え、子供の最低限の食事の質を維持できた可能性が示唆されます。

都市部の中間層こそが危ない

また、この研究は「誰が一番割を食ったのか」という点についても、私たちの直感とは異なる、しかし納得せざるを得ない事実を提示しています。

一般的に、経済危機で最も苦しむのは農村部の貧困層だと思われがちです。しかしデータが示したのは、農村部よりも「都市部」の子供たちの方が、身長への悪影響を強く受けていたという事実でした

農村部では、自分の畑で米や野菜を作ったり、農家の知り合いから融通してもらうことがある程度可能です。しかし、食料のすべてをスーパーでの購入に頼っている都市部の家庭は、価格高騰の波をまともに被ることになります

さらに注目すべきは、「貧困層ではない家庭(非貧困層)」の子供たちもまた、深刻なダメージを受けていたという点です

通常、政府の支援策は最貧困層をターゲットに行われます。その結果、支援の網から漏れてしまった中間層の家庭が、誰にも助けられないままインフレに飲み込まれ、子供の食卓の質を落とさざるを得なかった可能性があるのです

これは、「働いているけれど生活が苦しい」と感じている現代日本の多くの子育て世帯にとって、決して他人事ではない話でしょう。

カロリー確保だけでなく「栄養の質」を守ることが大切

今回の研究は、子供が幼い時期に栄養の剥奪を受けると、その影響が長期的な健康リスク(低身長や成人期の肥満)として残り、後の人生にまで影響を与える可能性を示しています。

特に、胎児期・新生児期や、3歳から5歳といった特定の発育期に、経済危機の影響を受けた子供たちは長期的な悪影響が強く出ていました。

世界中で経済的、環境的、政治的なショックが増加している現在、ボン大学の研究チームは、「カロリー量」の確保だけにとらわれず、「栄養の質」に配慮した介入策(nutrition-sensitive interventions)を、危機対応の政策に組み込むことの緊急性を強調しています。

子供たちの最も敏感な成長期に、適切な栄養を確実に保護すること。それが、将来の世代の健康と、社会全体の持続可能性を守るための鍵となるのです。

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