ダンゴムシは鉱石の結晶構造をどうやって変えているのか?

ダンゴムシはどんな方法で分子レベルの並び替えを行っているのでしょうか?
いまのところ、論文や関連研究がいちばん有力だとみているのは、ダンゴムシの体の中には「結晶を作りやすくするための足場」があると考えられていることです。
生き物が殻を作るとき、ただ適当に鉱物を並べているわけではありません。
ちゃんと生き物側が用意した、いわば型枠のような仕組みの中で、結晶が育っていくようになっています。
これは別に特別な話ではなく、私たちがプリンを作るときに型を使うのと似ています。
プリン液を型に流せば、自然と型どおりの形に固まるように、生き物もあらかじめ結晶が育ちやすい型を作っておいて、その型に沿って結晶ができるようにしているというわけです。
では、その「型」とは何でしょう?
今回の論文や先行研究によると、それは殻の中にある「有機物」だと考えられています。
ダンゴムシの殻(クチクラ)の中には、鉱物の材料だけでなく、タンパク質や糖類などの有機物が網目のように入っています。
この有機物が、鉱物の結晶が育つときの足場になっていると考えられているのです。
もっと具体的に言うと、カルサイトの結晶を育てやすくするような「材料の置き方」や「空間の作り方」が、有機物のネットワークで決められている可能性が高い、ということです。
つまりダンゴムシの体内には、「カルサイトが育つのにちょうどいい環境」がもともと用意されていて、アラゴナイトのような他の結晶が入り込んでも、結局はカルサイトの形に整いやすい、というわけです。
さらに研究者たちは、ダンゴムシが外から取り込んだアラゴナイトを、本当にそのままの形で使っているのかどうかにも疑問を持っています。
これは今回の論文が直接見せたわけではありませんが、関連研究ではダンゴムシの仲間である等脚類は、カルシウムを体の中で運んだり、古くなった殻のカルシウムを回収して再利用したりすることがよく知られています。
言い換えれば、ダンゴムシはアラゴナイトという鉱物をまるごと使っているわけではなく、体内でその鉱物を一度利用しやすい形に取り込み直して、いわば材料を“運びやすい小包”のように扱っているのかもしれないのです。
そして、それを新しい殻を作る場所へ持ち込んで、改めてカルサイトとして固め直していると考えられています。
たとえるなら、生き物側が外部の鉱物から来る“クセ”をしっかりと消してしまい、自分が作りたい結晶だけを作れるようにしている、というわけです。
論文も、こうした殻づくりの仕組みは、遺伝子や生体分子に支えられた仕組みによって、最終的にカルサイト型の炭酸カルシウムが優先的に形成される方向に導かれている可能性が高い、とまとめています。
つまりダンゴムシが分子レベルで一粒一粒を手作業で並べ替えているのではなく、「どの途中の材料を安定させるか」「どの結晶を育てるか」「どんな環境で結晶が成長するか」といった条件を、体内で上手に選んでいるということなのです。
もっとも、これらの部分は現在は予測的な部分もあります。
研究者たちも、詳しいメカニズムの解明は次の課題として挙げています。
それでも、この研究の価値は大きいです。
ダンゴムシの殻は、生物学の話であると同時に、材料科学の話でもあります。
自然は、高温や高圧を使わずに、しかも必要な場所にだけ材料を配置して、無駄のない構造を作ることができます。
軽くて、硬くて、それでいて割れにくい構造を、生き物はどう作っているのか。
そのヒントが分かれば、生物の仕組みをまねるバイオミメティクス材料の開発にもつながる可能性があります。
小さなダンゴムシの背中で起きていることは、未来の新素材の設計にもつながるかもしれません。





















































