リクガメのオスはメスを「崖から突き落とす」ことがあると判明――『楽園』が地獄に変わるとき
リクガメのオスはメスを「崖から突き落とす」ことがあると判明――『楽園』が地獄に変わるとき / Credit: Arsovski et al., Ecology Letters (2026)
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リクガメのオスはメスを「崖から突き落とす」ことがあると判明――『楽園』が地獄に変わるとき (2/4)

2026.05.11 19:35:01 Monday

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メスの「地獄」と化した楽園島

メスの「地獄」と化した楽園島
メスの「地獄」と化した楽園島 / Credit: Xavier Bonnet / The Conversation (CC-BY-ND)

調査が明らかにした最初の異変は、オスとメスの数の圧倒的な不均衡でした。

2023年の推定で、島の高原に暮らす成体のオスは約737匹。対するメスはわずか39匹。

最大でオス29匹に対してメス1匹です。

さらに深刻なことに、島の高原のメスで実際に卵を持っていたのはわずか15%にすぎませんでした。

一方、島から約4.5km離れた本土の対照集団(コニシュコ村)では94%のメスが抱卵していたことを考えると、その差は歴然です。

リクガメの卵は交尾すればできるというものではなく、メスが数ヶ月かけて体内に栄養を蓄え、交尾の前にあらかじめ卵を育てるという長い準備が必要です。

つまり島のメスたちは何らかの原因で卵を育てる余裕がなくなっていたのです。

さらにこの数を考慮に入れると、実際に卵を育て交尾の準備ができているメス1匹に対してオスが127匹に上ることになります。

問題は、この数の偏りだけではありませんでした。

ヘルマンリクガメの交尾は、生態学で「強制的交尾(メスの選好や抵抗にかかわらずオスが交尾を迫るシステム)」と分類されます。

オスはメスを執拗に追いかけ、甲羅をバンパーカーのようにぶつけ、脚に出血するほど噛みつき、尾の先端にある鋭い角質の突起でメスの総排泄腔(排泄と生殖を兼ねる器官)を突き続けます。

メスが逃げるのをやめたり、受け入れたりした場合に交尾が成立します。

これ自体は、この種の正常な繁殖行動です。

通常の環境なら、メスは身を隠したり、別の場所に移動したりして圧力をかわすことができます。

しかし、逃げ場のない島では事情が一変します。

オスたちは3〜8匹、多いときは9匹までの集団で、朝から夕方まで1匹のメスを取り囲んで追い続けます。

日が暮れるとメスのすぐそばに横たわり、翌朝また追跡が始まります。

メスは十分に休むことも食べることもできません。

本土のメスの多くが体重2.5〜2.9kgあるのに対し、島のメスで1.75kgを超える個体はほとんどいませんでした。

島の成体メスの75%が総排泄腔に傷を負っていたのに対し、本土の対照集団ではその割合は25%にとどまっています。

そして最も衝撃的なのが、崖からの転落です。

追い詰められたメスが高原の縁まで逃げ、そこで転落して命を落とすケースが繰り返し確認されていました。

(※たとえば2023年6月18日、加速度計付きのGPSが急激な落下を記録しました。20メートル下の岩場で見つかったメスの甲羅は真っ二つに割れ、体内には卵が3つ残されていました。)

研究者が調査を行ったところ、死亡したメスの22%が転落死だったのに対し、オスではわずか7%。

まるで崖が、メスを選んで殺しているかのようです。

そこで研究チームは、この現象を実験で検証することにしました。

人工的に作った崖を模した1メートルの段差がある囲いの中にメスを入れ、オス5匹と一緒にした場合とメス単独の場合を比較しました。

結果、オスを入れると、本土のメスも島のメスも、ほぼ全員が崖の縁から飛び出してしまったのです。

特に注目すべきは、本土のメス4匹はすべてオスに突き落とされたのに対し、島のメス7匹のうち4匹は、オスに押されるのを待たずに自分から飛び降りていたことです。

険しい地形への慣れや慢性的な交尾圧によって、島のメスの行動そのものが変質してしまっていた可能性があります。

注目すべきは、この偏りの出発点です。

研究チームが1〜9歳の幼体の性比を調べたところ、ほぼ均等(1.1対1)でした。つまり、生まれた時点では偏りはなかったと考えられます。

研究者たちは毎日繰り返される嫌がらせの蓄積でメスたちが十分に食べられず、休めず、傷が癒えない――その慢性的な消耗に加えて崖からの転落がメスの減少に拍車をかけている可能性があると述べています。

オスとメスはほぼ同数生まれているのに、主にオスの嫌がらせと「転落事故」でメスがどんどん死んで行っているわけです。

人間の場合、女性が衰弱死しするほどの執拗なつきまといや、崖の近くまで追い詰めて転落死させる場合は「殺人罪」や「傷害致死罪」ですが、リグガメには警察機構はありません。

オスたちは本能に従い行動した結果、メスが死に続けているのです。

ではこのままいけば、島のリグガメたちはどうなってしまうのでしょうか?

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