約5500人の10代に「歩数計」を付けてもらった

10代の前半は、人の一生のなかでも脳が大きく育ち、作りかえられていく大切な時期です。
同じころは、うつや強い不安、行動の乱れといった心の不調も起こりやすくなります。
大人については、体を動かすことが心の健康を支える柱の一つだと広く認められています。
しかし10代のふだんの運動量を調べる研究は、これまで本人の思い出しに頼るアンケートが中心で、正確さに欠けていました。
そこで今回の研究では、アメリカの21か所で進められている大規模な追跡調査「ABCD研究」のデータを使いました。
ABCD研究は、子どもから思春期へと向かうなかで心と脳がどう育つのかを、長い期間にわたって調べるものです。
対象は平均年齢が約12歳の5515人で、そのうち約48%が女子でした。
参加者は11〜12歳ごろに研究用の歩数計を3週間続けて身に付け、1日の平均歩数が記録されました。
脳の形については、MRI(磁気の力で体の中を写す装置)で撮影した画像も使っています。歩数と脳の画像は、どちらも2018年11月から2020年11月までに集められたものです。
そして1年後に、本人と保護者が答える質問票で心の状態を調べました。
この質問票では、人付き合いを避ける、気分が落ち込む、不安が強いといった内向きの悩みと、行動面の問題の両方を確かめます。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(運動の「回数」が少ない学生ほど翌年にうつや不安が出やすい傾向)
さらに研究チームは、学校の成績との関係もあわせて調べました。
歩数が少ない子と多い子のあいだで、1年後の心や成績、そして脳の形に違いは出たのでしょうか。
よく歩く10代の脳に見られた「ある違い」

分析の結果、1日の歩数が多い10代ほど、1年後の心の不調が少ない傾向がはっきり見られました。
歩数ごとにグループに分けて比べると、5000歩未満のグループに比べて、歩数が多いグループほど不調が段々と少なくなっていました。
なかでも1日1万2000歩以上歩いていた10代は、気分や行動の問題がもっとも少なかったと報告されています。
注目すべきなのは、調べた範囲では、この「歩くほど少ない」という傾向がどこかで頭打ちになる様子が見られなかったことです。
共同研究者のパルチ氏は、どの歩数から始めても、1日1000〜2000歩多いことが脳の形や心の状態の良さと結びついていたと話しています。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(「座りっぱなしの代償」に対抗する1日の歩数が判明【近道はない】)
一方で、歩数と学校の成績のあいだには、つながりが見られませんでした。
つまり歩数とのつながりは、勉強の出来よりも、気持ちや行動の面に表れていたのです。
では、脳の形はどうだったのでしょうか。
MRIの画像を調べると、歩数が多い10代ほど、脳の表面をおおう層(大脳皮質)の一部が厚い傾向がありました。
厚かったのは、体の動きに関わる領域と、感情を落ち着かせる回路にあたる領域でした。
論文では、体の動きに関わる「傍中心部」と、感情の調整に関わる「前帯状皮質の前側」の2か所が挙げられています。
さらに研究チームは、歩数と心の関係に、この脳の違いがどう関わっているのかを統計で調べました。
すると、傍中心部の厚さが、歩数の多さと1年後の心の不調の少なさとのつながりを、統計の上で一部橋渡ししていることが分かりました。
歩くことと心の元気のあいだに、脳の形の違いが挟まっている可能性が見えてきたのです。
筆頭著者のリー氏も、これはまだ初期の段階の結果だが、次にどこを調べればよいかがはっきりしてきたと述べています。
ただし、この研究は子どもたちの様子を観察したもので、歩くことが心の不調を減らすという因果関係までは証明できません。
調査を始めた時点の心の状態を考えに入れてもつながりは残りましたが、もともと心が元気な子ほどよく動く、という逆向きの可能性も残っています。
それでも、費用が少なく誰でも使いやすい「歩数」という物差しが、10代の心と脳の育ち方と結びついていたことは見逃せません。
パルチ氏は、一流の選手のように運動する必要はなく、歩いて学校へ行く、体を使って遊ぶといった日々の機会を増やすことが大切だと話しています。
子どもの「ちょっとそこまで歩く」は、心と脳の育ちにつながる小さな一歩なのかもしれません。
今夜の「ちょっとコンビニまで行ってきて」も、立派なおつかい兼トレーニングとして胸を張って頼めそうです。




















