イヌの研究とは異なった、ストレスホルモンの結果
では、なぜネコでは、飼い主とのストレスホルモンの関連がはっきり見られなかったのでしょうか。
対照的なのがイヌです。
イヌでは、障害物競技(アジリティ)や捜索救助の作業の場面で、飼い主とイヌのストレスホルモンの関連が報告されています。

数か月分の値がたまる毛の中のストレスホルモンでも、同じような関連が見られています。
これは、相手のストレス状態を自分にも映し取る「情動伝染」によるものと考えられています。
実際、イヌは人のストレスのにおいをかぎ分けられ、そのにおいでイヌ自身の感情も左右されることが分かっています。
研究チームは、この違いの背景に、イヌとネコの祖先の暮らし方の差があるかもしれないと考えています。
イヌの祖先は群れで暮らす動物ですが、イエネコは、おもに単独で、状況によっては仲間とも暮らす生き方を保ってきました。

群れの仲間との関係に合わせてストレスを調節するしくみは、単独で生きてきた動物にはあまり必要なかったのかもしれません。
また、イヌでの連動は、人と密に協力するよう選ばれた犬種に特有かもしれず、関係の質にも大きく左右されるという指摘もあります。
ネコも、人の感情のにおいをかぎ分け、行動で反応することは知られています。
しかし、その敏感さは、ストレスホルモンの連動にはつながっていないようです。

過去の研究でも、ネコと飼い主の毛の中のストレスホルモンに、はっきりした関連は見られていませんでした。
ただし、イヌの研究は毛や唾液、血液で測っていて、今回の尿とは測り方が違います。
そのため、この比較だけで種の違いをはっきり言うことには限界がある、と研究チームは述べています。
研究チームは、さらに踏み込んだ推測も示しています。
複数のネコを一緒に飼う環境では、ネコ同士がよく触れ合うほど、愛情ホルモンが低いという先行研究があるのです。
これは、群れで暮らす動物でふつう見られる働きとは逆の関係です。
今回の結果と合わせると、家畜化の中で、ネコの愛情ホルモンのしくみが、仲間より人との絆に向かうよう変わった可能性もあります。
ただし、どちらの研究も関連を見たものにすぎず、この考えはまだ確かめられていません。
今回の研究そのものも関連を示したもので、ネコと飼い主のどちらが原因なのかはまだ分かっていません。

高木特定助教は今後、ネコとヒトが日々の暮らしの中でどう影響し合っているのかを、さらに詳しく調べたいとしています。
膝の上でゴロゴロ鳴くネコを撫でる日々の積み重ねの中で、飼い主とネコは、同じ愛情ホルモンでひそかにつながっているのかもしれません。
これからネコを撫でる時間は、堂々と「ホルモンのやりとりの時間」と呼べそうです。
ここからは、オキシトシンをもっと知りたい人へ
オキシトシンとは、出産や子育て、人どうしの絆に関わるホルモンです

オキシトシンは、名前にお産の意味をもつホルモンで、ギリシャ語で「早いお産」を表す言葉から名付けられました。
1980年代以降には、オキシトシンが脳の中でも働き、人どうしの絆や気持ちの調節に深く関わることが分かってきました。
人間関係とのつながりが注目され、今では「愛情ホルモン」のほかに「絆ホルモン」と呼ばれることもあります。
子育てとのつながりも深く、オキシトシンを受け取る仕組みをなくしたマウスでは、出産には影響が無いのに、授乳や子育ての行動に影響が出ます。
体の中ではとても短命なホルモンでもあり、血液中のオキシトシンは5分もたたないうちに半分に減るとされています。
形は、同じく脳で作られるバソプレシンというホルモンとよく似ていて、違うのはアミノ酸(たんぱく質の部品)2つだけです。
人とのかかわりでは、イヌと飼い主が見つめ合ってオキシトシンを高め合う仕組みがオオカミでは見られず、イヌが進化の中で身につけたものだと分かっています。






画像の三毛にゃんかわよ