殻の向きを決めていたのは何だったのか?
チームはこれまでに岩手と山形、今回新たに福島で、右巻きと左巻きが接しているかもしれない場所を見つけていました。
決め手になったのは、4か所目に見つかった新潟県の山奥の谷でした。
ここでは右巻きと左巻きが広い範囲で一緒に暮らし、殻の見た目もよく似ていました。

実際に、右巻きと左巻きが交尾する様子も、少なくとも時々は観察されています。

もう1つの鍵は、子の巻く向きが母親の遺伝子で決まるという性質です。
研究室で新潟の母親に卵を産ませると、1回に生まれる子はみな同じ向きでした。
その中には、母親とは逆向きの子がまとめて生まれた例もありました。

つまり、殻の見た目の向きと、その個体が持つ遺伝子の型が食い違うことがあるのです。
向きの違いは、受精卵が3回目の分裂をするころの細胞のねじれに、すでに表れていました。
交尾とこの食い違いのおかげで、この場所では今も右巻きと左巻きの間で遺伝子が混ざり合っていると考えられます。

そこでチームは両方の型の遺伝子を詳しく比べ、巻く向きと結びつく遺伝子を探しました。
その結果、浮かび上がったのは「ミオシン」というタンパク質を作る遺伝子の違いでした。
ミオシンは、ほかのタンパク質と組んで細胞の骨組みをつくり、細胞が動いたり形を変えたりするのを助けます。
見つかったのは、その中でも少し変わった種類(ミオシンIa/b)でした。
この種類が左右の決定に関わることは、これまでどの動物でも知られていませんでした。
では、右巻きと左巻きでは、受精卵の中で何がどれほど違うのでしょうか。
チームは、まだ1個の細胞の段階の受精卵を1つずつ調べ、どの遺伝子がどれだけ働いているかを比べました。
このカタツムリで、右巻きと左巻きの間で働きが違った遺伝子は、2万6839個のうち22個だけでした。

割合にすると0.08%で、1万個のうち8個ほどです。
ミオシン遺伝子そのものの働く量にも、違いは見られませんでした。
同じ調べ方をモノアラガイで行うと、結果は大きく違いました。
モノアラガイの左巻きは、「フォルミン」という別の遺伝子の読み取りがずれる変異で起こります。
その左巻きと右巻きの受精卵では、3,005個の遺伝子の働きが違っていました。
これは全体の17%で、およそ6個に1個にあたります。
つまりマイマイ属では、左右の向きが変わっても、受精卵の中で働く遺伝子の顔ぶれはほとんど変わらないのです。




