左巻きのミオシンに刻まれた小さな違い
チームは次に、ミオシンを形づくるアミノ酸(タンパク質の部品)の並びを、右巻きと左巻きで比べました。
すると左巻きの型には、右巻きのマイマイ属には無いアミノ酸の置き換えが8つありました。
この8つは、調べた左巻きのマイマイ属のすべての個体と種で共通していました。

一方、右巻きの側には、その系統だけが持つ置き換えは見つかりませんでした。
8つのうち3つは性質の大きく異なるアミノ酸への置き換えで、働きに影響しそうだと予測されました。
たとえば132番目の位置では、小さくて柔らかいアミノ酸が、大きくかさばるアミノ酸に入れ替わっていました。
なかでも目を引くのが467番目の位置です。
この場所は、巻き貝の仲間57件の遺伝子データで、どれも同じアミノ酸でした。
さらに、左右対称な体を持つ動物(左右相称動物)を見渡すと、この場所はどの種でも同じアミノ酸(システイン)でした。
動物の進化の中でずっと守られてきた場所が、左巻きのカタツムリでは変わっていたことになります。
これらの置き換えは、ミオシンの「モーター」にあたる部分や、その付け根の部分にありました。
チームは、ミオシンとアクチン(細胞の骨組みをつくる別のタンパク質)の関わり方に影響している可能性があるとみています。
それによって、ごく初期の細胞のねじれが時計回りか反時計回りかが変わり、殻や内臓の向きが決まる、というのがチームの考えです。

解析からは、左巻きの型で自然選択の縛りがゆるみ、優性に働く(片方の親から受け継ぐだけで効果が表れる)置き換えが入り込めたことも示されました。
では、左巻きになることは、カタツムリにとって害にならないのでしょうか。
遺伝子の系統をたどると、右巻きと左巻きの型はどちらも古くからあり、属の中のほかの系統とも近くないことが分かりました。
長い間どちらの型も受け継がれてきたことは、どちらにも病的な影響が無いことと合っています。

実際に、遺伝子の型が右巻きの母親と左巻きの母親とで、卵のふ化率に大きな差はありませんでした。
ただし論文は、わずかな影響まで否定できたわけではないと断っています。
研究を率いたアンガス・デイヴィソン教授は「ミオシン遺伝子の小さな変化が、健康に生きられる鏡写しのカタツムリを生み出していた」と話します。
一方で、同じ向きの分子から、なぜ向きの変わる体や殻が作られるのかは、まだ深い謎だとも述べています。
論文は、今回見つかった変異やミオシンの位置を、ほかの動物でも調べるべきだとしています。
日本のマイマイ属で巻く向きを分けていたのはミオシン遺伝子の違いで、その左巻きの型には、左右対称な動物の間でずっと変わらずに保たれてきた場所を含む、ほんの数か所のアミノ酸の入れ替えが刻まれていたのです。
左巻きのカタツムリを見かけても、ひねくれ者だと思わないであげてください。
ここからは、ヒダリマキマイマイをもっと知りたい人へ
ヒダリマキマイマイとは、その名のとおり左巻きの殻で知られる、日本のカタツムリです

その殻はおよそ5回半巻いていて、色や模様は、すむ場所によってかなり違います。
たとえば平地にすむものは殻が黄色で、まわりを黒い帯がめぐり、殻の下側にあるくぼみ(へそ穴)も黒くなっています。
一方、山地にすむものは殻が黒ずみ、色の帯が多く、炎のような模様も入ります。
こうした地域ごとの型には名前があり、山地のものはチャイロヒダリマキマイマイという亜種(同じ種の中の、地域ごとのまとまり)とされ、石川県輪島市の舳倉島にすむ小さくて殻の堅いものはヘグラマイマイと呼ばれます。
伊豆諸島にすむものも小さく、舳倉島の型に似ています。
殻から出ている体のほうは黒っぽい茶色で、淡い色の雲のような模様があります。
ヒダリマキマイマイは腐った葉や若い芽を食べ、卵を産むときには落ち葉の下に穴を掘って、真珠の粒のような卵を産みます。
このカタツムリは、百科事典でミスジマイマイと並んで、関東地方を代表するカタツムリに挙げられています。





