・特殊なプラズマを植物の蕾に散布することで、植物を冬の休眠から目覚めさせられることが判明
冬の間はブドウや桃などの植物も、クマやモグラと同じように休眠します。寒さが深まるとともに夜が長くなるのを感じ取り、葉を落として代謝活動の速度を下げ、「睡眠」状態に入るのです。
農家にとって、農作物の成長を上手く管理して、果実が同時に実るようコントロールすることは、大きな課題の一つです。暖冬などの影響で植物が十分な寒さに晒されないと、成長再開の足並みが揃わず、中には蕾が上手く開かない木も表れます。木々の成長再開の時期を揃えることができれば、その後の手入れや収穫が楽になり、余計な費用を掛けずに済みますが、予測不可能な天候が相手ですからそれは至難のわざです。
この悩みに革命をもたらす新技術が、サウジアラビアからもたらされました。特殊なプラズマを植物の蕾に散布することで、植物を冬の休眠から目覚めさせられるそうです。プラズマとは、気体を構成する分子が電離し陽イオンと電子に分かれて運動している極めて高温の状態を指し、固体・液体・気体に続く物質の第4の状態と言われています。落雷、天体の中心、オーロラ、ネオンなどに見られ、核融合試験炉の発動や歯のインプラントの殺菌など、さまざまな分野で活用されています。
研究を行ったのは、ジーザーン大学に所属する園芸家のHabib Khemira氏、プラズマ物理学者のZaka-ul-Islam Mujahid氏、植物生理学者のTaieb Tounekti氏ら。彼らの間で交わされた何気ないディスカッションが、研究のきっかけになりました。
http://meetings.aps.org/Meeting/GEC18/Session/PR2.12
ある日、Khemira氏が「ブドウの酸化ストレス」に関する自分の研究についてMujahid氏に説明していた時。二人はふと、これまで誰もプラズマを使った実験を行っていないことに気づきました。そこで、プラズマをブドウの蕾にスプレーする実験を行ってみたところ、これがなんと大成功。
そして同僚のTounekti氏に分析を依頼し、自然の寒さや水素シアンアミドが誘発する酸化ストレスと類似した状態を、プラズマが誘発することが判明しました。あまりにもとんとん拍子に進んだため、はじめは彼らにも信じられなかったのだとか。
春になると植物が目を覚ますのは、冬の寒さがあるからこそ。寒さが続いた日数を記録し、寒い日が十分に続いたと感じると、代謝を上げて蕾を開くのです。しかし暖冬の場合は十分な寒さを感じることができず、暖かくなっても蕾が開かないという事態が生じます。収穫時期が揃わないと、農薬散布などの管理が複雑になってしまうため、農家は常に、植物の蕾を同時に開かせ、花や実をつけさせることを目指しています。
Khemira氏らは、各地から集めたさまざまな種類のブドウの蕾に特殊なプラズマを散布。対照群として、プラズマを散布しないブドウも育て、こちらは5℃の気温に60日間晒しました。その結果、プラズマを散布したすべてのブドウに効果が見られました。実際の気候よりも速く、その他の人工的な方法よりも安全に、植物を目覚めさせることができたのです。冬を経験したことのないブドウでさえ、2〜3分間ほどプラズマを散布しただけで、ちゃんと蕾が開いたそうですから、驚きですね。
これは、プラズマの投与が植物中の酸化ストレスを誘発したことを意味します。酸化ストレスは、寒さによって引き起こされる休眠中の植物が示すのと同一の信号です。
従来、寒さ不足を補うための手段として、水素シアンアミドなどの化学物質が用いられてきました。ですが、こうした化学物質は、自然の寒さが基準を満たす場合にしか効果がありません。また、水素シアンアミドは人体や動植物にとって有毒で、使用が禁止されている国もあります。Khemira氏らの新技術を使えば、温暖な地域で行われている農作物の栽培を、冬がほとんど無い地域(南米、南アジア、東南アジア、中東など)でも可能になり、地球温暖化への対応にも役立てられるかもしれません。
今後は実際の畑でテストを行い、設備費などの商業的観点から実現化やブドウ以外の植物でも効果を検証する必要があります。研究チームは、畑でのテスト実施のためのパラメーターの算出にすでに取り掛かっており、数年以内の実現化を考えているとのこと。プラズマという意外な技術を活用したこの栽培方法は、農業界に大変革を起こしそうです。
via: phys.org / translated & text by まりえってぃ