・現在、Netflixで配信されている『13の理由』という自殺問題を扱ったドラマが、若者の自殺リスクを高めている
・自殺未遂をする若者の大半が、日頃の悩みを周囲の人に打ち明けられず、内に抱えてしまい、自殺行為へと走らせる
・感傷的な若者は、メディア・コンテンツの影響を受けやすく、親や先生など信頼できる大人の助言や注意が必要不可欠
ミシガン大学の研究で、アメリカで自殺未遂によって精神科で診察を受けた10代の若者の多くが、現在ネットフリックスで配信されている『13の理由』というドラマを観ていたことが分かりました。果たして『13の理由』は、若者を自殺に走らせる悪魔のようなドラマなのでしょうか?
https://ps.psychiatryonline.org/doi/abs/10.1176/appi.ps.201800384?journalCode=ps
物語は、17歳の少年ジェンセンが学校から帰宅すると、玄関先にカセットテープが置かれているのを発見するところから始まります。そのカセットテープには、彼が密かに想いを寄せていた同級生の少女ハナが自殺を決断した13の理由が録音されていたのです。
10代の若者を中心に、高い人気を誇るこのシリーズ。しかしメンタルヘルスの専門家たちの間で、その自殺問題の描き方が議論の的となっています。というのも、『13の理由』は、感受性の高い学生たちにネガティブな影響を潜在的に与えているとされ、専門家たちはこのドラマの人気上昇を非常に懸念しているのです。
『13の理由』に影響を受けたと話す10代の青少年たちは、その多くがドラマに登場する主要人物のハナ・ベイカーという少女に自らの姿を重ねていたとのこと。ハナは性的暴行や学校でのいじめ、憂うつ症に悩まされている17歳の少女ですが、彼女が経験するそれらの問題のほとんどが、今日の若者が直面している現実的な問題です。そのために、ハナに感情移入してしまう若者たちが後をたたず、内に抱えた問題にネガティブな影響を及ぼしていると考えられます。
ミシガン大学の医療研究員は今回、自殺未遂をした若者にこのドラマが自殺を決断させるのに影響を与えたかどうかを調査しました。すると、2017年と2018年に行われた調査に参加した87人の若者の内、およそ半数が「13の理由」を少なくとも1エピソードは視聴しており、その多くが13歳から17歳の青少年でした。そして、ドラマを観ていた若者たちのさらに半数の20人以上に、自殺リスクの増加傾向が観察されたのです。
ミシガン大学の主任研究員であるヴィクター・ホン氏は、『13の理由』が「特に10代の若者の間で深刻な社会現象となっている」と言います。このドラマが若者の自殺に直接的な影響を及ぼしていたかどうかは断言できませんが、感傷的な学生たちに強いインパクトを与えているのは確かです。
『13の理由』は、健康で快活な若者に悪影響を与えているという専門家は少ないものの、自殺願望と生の狭間で揺れ動く学生には、その後押しとなってしまう可能性が非常に高いことには意見が一致しています。
また調査では、『13の理由』を視聴していた若者の大半が、親の同伴なく一人で観ていたことも判明。さらに、視聴した若者のおよそ81%が、ドラマの内容を自分の親ではなく友人と話し合う傾向にあったことも判明しています。これは些細なことではなく、非常に重大な懸念事項だと専門家は言います。
というのも、自殺未遂を行った10代の青少年たちは、その多くが親や大人たちに学校生活や日頃の悩み相談などをしていなかった傾向にあるからです。親や学校の先生、スクールカウンセラーなど信頼できる大人の助けが必要な若者たちほど、相談相手を探すことができないでいることが分かっています。他にも調査結果では、若者の親のほとんどが『13の理由』を観たことがなく、その上子どもが視聴していることすら知らなかったのです。
若者が隠し持つ自殺願望が悪化し、最悪の結果を引き起こさないためにも、信頼のできる大人が話し相手になることが必要不可欠であり、その最たる存在が親です。感傷的な若者を自殺に走らせないためにも、親が積極的に子供と話し合うことが何よりも重要だと、ホン氏は指摘しています。
研究チームは、『13の理由』以外にもメディア・コンテンツが若者に与える自殺願望の影響力をより詳細に調査する必要があると注意喚起しています。精神的に感じやすい若者たちは、ドラマの影響を受けやすく、周りの大人の助言が必要です。また、私たち大人が『13の理由』を視聴する際も、多少気合を入れたほうがよさそうです。
via: eurekalert / translated & text by くらのすけ