Point
■小さな魚が群れをつくって泳ぐ姿が閉じ込められた化石が、米国西部の5千万年前の地層から発見された
■個体同士が接近しながらも衝突を避けつつ、集団運動を行っていたことを裏付ける型が見つかった
■群泳が、始新世のおよそ5千万年前にはすでに出現していた可能性を示唆
一瞬にして時が止まったような躍動感だ。
小さな魚が群れをつくって泳ぐ姿が閉じ込められた化石が、米国西部の5千万年前の地層から発見された。
これを証拠に、米アリゾナ州立大学で行動生態学を研究する水元惟暁氏らが、魚の「群泳」が開始した時期を絞り込んだ。群泳とは、魚などが同じ方向を向いて、個体同士で相互作用しながら集団で移動する行動様式のことだ。
レオ・レオニ作の童話『スイミー』を想像すると分かりやすいかもしれない。
水元氏らによる論文は、雑誌「Proceedings of the Royal Society B」に掲載されている。
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2019.0891
「めだかの学校」 5千万年前から存在
化石に閉じ込められていたのは、サケスズキ目と呼ばれるグループの淡水魚”Erismatopterus levatus”の稚魚259匹と見られている。体長1〜2センチの魚が群れになって泳ぐ様子が、ありありと伝わってくる。
この一団に悲劇が訪れたのは、およそ5千万年前のある日のことだった。彼らに死をもたらした要因ははっきり分かっていないが、おそらくは砂丘が突然崩壊したことで生き埋めになったものと考えられている。
大量の砂に一瞬にして閉じ込められた彼らは、最高のコンディションで化石化したのだ。もちろん、彼らにとっては最悪の事態だが…。
水元氏らが各個体の位置と進行方向を分析したところ、個体同士が接近しながらも衝突を避けつつ、集団運動を行っていたことを裏付ける型が見つかった。これは、今日多くの魚が持つ特性だ。
群泳は、英語でschoolingと呼ばれる。たしかに集団で一定の方向に向かって泳ぐ様子は、「めだかの学校」を彷彿とさせる。
群泳のメリットは、敵に捕食されるリスクを減らす・流体力学的効率を上げる・食糧獲得の成功率を上げる・つがいを見つけやすくする…など、多岐にわたる。
多くの生物学者によって数多く観察されてきた群泳だが、進化の歴史の中でいつ誕生したのかははっきりしていない。生物の集団による集団運動は、近くの個体同士の相互作用を統制する単純な規則が元になる可能性がある。このため、集団運動は比較的早い時期に進化したと推測されてきた。
この化石は、群泳が始新世のおよそ5千万年前にはすでに出現していた可能性を示唆している。