「LASER ART」と「CRISPR-cas9」の見事なコンビネーション
研究チームははじめに、LASER ARTという処理を加えたARVを用いて、血中で活発に複製しているウイルスの数を減少させた。
LASER ARTは従来のARVに微調整を加えて結晶構造に変化させることで、脂溶性の粒子の中に閉じ込める技術である。
これにより、ウイルスが隠れて存在しやすい肝臓・リンパ・脾臓などの組織の細胞膜を薬剤が通過できるようになる。こうなればしめたもので、後は細胞の酵素が薬剤を放出してくれるのだ。
しかも結晶構造のおかげで薬剤が従来より遅いスピードで放出されるため、出現から複製までの数ヶ月間にわたって、たとえ活動していない間であってもウイルスを殺しつづけることができる。
これが、数日から数週間しか効き目がない従来のARVとの大きな違いだ。
次に研究チームは、CRISPR-cas9という遺伝子操作技術を使って、血中を循環するHIVに感染した細胞のうちARVが取り逃した細胞からHIV遺伝子を切り取った。
過去にもCRISPR-cas9を用いてHIV遺伝子を切り取ることに成功していたが、HIVウイルスは同時にあまりにも多くの複製を作るため、単独ではその速度に追いつけなかった。
そこで今回研究チームは、LASER ARTとCRISPR-cas9を組み合わせることを思いつき、その目論見が見事的中したというわけだ。
今回の実験では、健康なマウスに再移植した免疫細胞を調べたところ、HIVウイルスはまったく感染していないことも明らかになった。この新メソッドをもってすれば、HIVの完全根絶も夢ではなさそうだ。
研究チームは、すでにヒト以外の霊長類での試験を開始している。同様の効果が認められれば、いずれヒト試験への扉が開かれるだろう。HIV治療の未来は明るい。