Point
■銀河に含まれるガス(分子雲)には、星を生産可能な高密度ガス雲と、星は生まれない低密度ガス雲が存在している
■日本の野辺山宇宙電波観測所が、銀河に含まれるガス中で高密度ガス雲は僅か3%しか存在していないことを明らかに
■これまで、銀河は含まれるガス量に対して生産される星の量が少ないと指摘されていたが、その謎の一部が解明された
星々はもともと、宇宙に漂う分子雲という冷たい「ガスの濃い領域」から生まれています。
そのためこれまでの観測では、銀河の含む分子雲(ガス雲)の量から星の生産量が推定されてきました。
ところが、実際銀河の星の数を検出すると、銀河に含まれるガス雲から予想される生産量より1000分の1も少ない数になってしまうのです。
この矛盾は我々が考えているよりも、高密度ガス雲の量がずっと少ない可能性を示唆しています。
これまでの研究では、その観測の難しさから、ガス密度は特に考慮せず分子雲の調査が行われていました。しかしこの問題を解決するためにはガス密度を含め、高い空間分解能で、そして広い範囲に分子雲を調査する必要があります。
これまで、この困難な観測を成功させた研究はありませんでした。
それを克服したのが、日本の「国立天文台 野辺山宇宙電波観測所」が行った大規模分子雲調査プロジェクト「FUGIN」です。
このプロジェクトでは45メートル電波望遠鏡と、そこに搭載されている新型受信機「FOREST」を用いて、天の川銀河の2万光年に渡る広範囲について、ガス雲の精密測定をすることに成功したのです。
その結果、天の川銀河に存在する高密度ガス雲は、低密度ガス雲の全質量に対して僅か3%しか存在しないことが明らかとなりました。
これは予想に対してあまりに低い割合で、低密度ガス雲からは何らかの阻害要因によって高密度ガス雲がほとんど形成されていないことを示しています。
この研究成果は、日本の国立天文台および名古屋大学、大阪府立大学、筑波大学、明星大学の研究者からなるチームにより、日本天文学会欧文研究報告にて公開されています。
FOREST Unbiased Galactic plane Imaging survey with the Nobeyama 45 m telescope (FUGIN). V. Dense gas mass fraction of molecular gas in the Galactic plane
https://academic.oup.com/pasj/advance-article-abstract/doi/10.1093/pasj/psz033/5474917
星の生産工場
分子雲には、濃い場所と薄い場所があります。星が生まれるのは濃い場所です。
これは高密度のガスが星の生産工場ならば、低密度のガスは工場を作る建築資材という関係で考えることができます。
そのため、ある程度の低密度ガスがあれば、そこから一定割合で高密度ガスが形成され、そこから星が生まれるというモデルが考えられたのです。
高密度ガスの中では、細いひも状にガスが束ねられており、そのひもの中から星が誕生していきます。
このモデルに基づいて、過去様々な銀河の分子雲観測が行われてきました。その結果が明らかになったのが、どうも銀河に分布するガスの総量に対して、生産されている星の数があまりに少ないという事実でした。
予想生産量の1000分の1も星の数が少なかったのです。
高密度ガスが存在する領域は、銀河に広がるガス全体に対してあまりに小さいので、これまでの観測分解能では高密度ガスを上手く見つけ出すことができませんでした。
ガスの広がる範囲も非常に広大なので、そのすべてをカバーして観測するというのも困難な問題なのです。
そのため、ひも状のガスが束ねられた高密度ガスはどうやって生まれるのか? 銀河にそんな高密度の分子雲はどれくらいあるのか?
そのどちらも不明な状態だったのです。
当然、星の観測量と予想生産量が一致しない問題も未解決のままでした。