Point
■大阪大学は、筑波大学・JAXAとの共同研究で、国際宇宙ステーションでのマウスの飼育と全頭生還に成功した
■宇宙滞在したマウスは、地上検査では精子生産能力に異常はなく、このマウスの精子から誕生した次世代マウスにも宇宙滞在の影響は見られなかった
■哺乳類の宇宙空間での飼育と地球への生還は、技術的な問題からこれまで実現しておらず、この研究は生殖能力に対する宇宙滞在の影響を世界で初めて明らかにした
人類の活動領域が宇宙へと拡大しつつある現代、放射線の飛び交う宇宙滞在の影響は重要な調査対象となっています。
しかし、これまでは技術的な問題から哺乳類を宇宙で飼育し、無事に地球へ連れ帰ることができませんでした。
JAXAはこの問題を解決させ、国際宇宙ステーション「きぼう」でマウスを飼育し、宇宙滞在による影響について研究することを可能にしたのです。
今回の研究はその装置を利用して、オスのマウスの生殖機能が宇宙滞在によってどのような影響を受けるかを世界で初めて明らかにしています。
この研究成果は、大阪大学微生物病研究所、筑波大学の研究者らと宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同研究チームより発表され、Natureの姉妹紙であるオンラインジャーナル「Scientific Reports」に、9月24日付けで公開されています。
https://www.nature.com/articles/s41598-019-50128-w
宇宙生活の影響
宇宙の滞在には、重力や放射線、精神的ストレスを含め様々な人体への影響が考えられます。
人類への影響を調査しようと考えた場合は、哺乳類を用いた影響調査は欠かせないものですが、これまでは技術的な問題から宇宙で哺乳類を飼育するという実験は実現できずにいました。
放射線は特に遺伝子を傷つけるため、宇宙滞在による生殖機能への影響や、子孫へ及ぼす影響は科学的にも重要な関心事項です。
2017年には、宇宙空間で9ヶ月間冷凍保存されたマウスの精子を使い、生まれたマウスの調査が行われています。この研究では、放射線による損傷が精子に確認されましたが、生まれたマウスやさらにその子孫たちに健康上の影響は見られませんでした。
しかし、宇宙滞在による哺乳類の生殖器官や受精能力が受ける影響についてはよくわかっていませんでした。
JAXAの国際宇宙ステーション「きぼう」では、こうした問題を解決し、宇宙空間でのマウス飼育を可能にしています。
今回の研究では、宇宙に35日間滞在したマウスを地球へ生還させ、細胞レベルで調査を行いました。
12匹の雄のマウスたちは遠心機を使い、一部が1Gの人工重力を維持した環境で、他は0Gの微小重力環境の中で飼育されました。
オスの生殖器官は、精巣での精子生産、精巣上体での卵との受精能力の獲得など、生物の繁殖おいて重要な役割を果たす器官が多く存在しています。
宇宙旅行を楽しんだマウスたちは地球への帰還後、地上で育ったメスのマウスたちと子を作りました。その結果、宇宙マウスに精子の生産能力や受精能力に問題は見られず、そこから誕生させた次世代マウスにも健康面や繁殖能力に親世代の宇宙滞在の影響は確認されませんでした。