機関車と言えば蒸気が一般的ですが、「ソーダ」で走る機関車が存在したのをご存知でしょうか。
この「ソーダ機関車(Soda locomotive)」はごく短い期間しか使われなかったため、人々の記憶からはすぐに消えてしまいました。
それでも実は、「蒸気機関をはるかに上回る」と言われていた利点があったといいます。それは一体何なのでしょうか。
無音で走行、煤も煙も一切なし
ソーダ機関車は、「苛性ソーダ (水酸化ナトリウム) 」による化学反応を用いた機関車です。
苛性ソーダ はかなり危険な薬品で、一滴でも目に入ると失明の恐れがあります。一方で、水と混ざることで急激に発熱する性質も持っていました。
ドイツの化学者であるモーリッツ・ホーニヒマンは、この性質を利用して、1880年に「ソーダ・エンジン」を発明します。
ソーダ・エンジンはタンクの中に数トンの苛性ソーダを積載しており、水を加えると激しい発熱反応を起こします。この熱自体が、ボイラーを動かすエネルギーとなるため、石炭を燃やす火室は必要ありません。
ボイラーから出る蒸気は、通常の蒸気機関車と同じように、車輪を前進させるためにピストンを通して供給されます。
しかしこのとき、ピストンから排出される蒸気は、外の大気に放出されるのではなく、再び苛性ソーダのタンクに供給されるのです。それにより、円環的なエネルギー循環が可能になります。
ソーダ機関車は、蒸気を外に排出しないため、ほぼ無音で走行できたといい、石炭も使わないので、煤や煙をまったく排出しませんでした。
ソーダ機関車は、積載された苛性ソーダの量に応じて、数時間ほど運転することができましたが、最終的に、ソーダは希釈され、蒸気を発生するのに十分な熱を作れなくなります。
すると、機関車は「再充電」のため停車駅に持ち込まれ、再度、苛性ソーダを補充します。こうして、ソーダ機関車は、もう1サイクル動力を作る準備が整うのです。