- 非常に小さいスケールで起こる原子が結合する様子の撮影に成功した
- 実験はカーボンナノチューブ内に捕らえられた2つの金属原子を使って行われた
- 動画からは原子が距離によって一旦は構造を切断するが、再び結合し分子として安定する過程が見て取れる
この世界に存在する全て物質は原子の結合によってできています。
ネバネバと糸を引く粘液も、ツルツルと硬質な金属も、「原子がどう結合しているか」で作られているのです。
近代の原子論が登場したのは16世紀頃と言われていますが、量子論が登場し始める20世紀初頭でさえ、多くの物理学者は物質が原子で出来ているという考え方に懐疑的でした。
それはすべて、原子が小さすぎて見ることができなかったからです。
しかし、現代技術は電子顕微鏡を使うことで原子を見ることができます。そして、新たな研究では、髪の毛の幅の50万分の1というスケールで起こる、原子同士が結合して分子を構成する様子の撮影に史上初めて成功したのです。
この研究論文は、ドイツのウルム大学のUte Kaiser教授と英国ノッティンガム大学のAndrei Khlobystov教授を中心とする国際研究チームより発表され、科学ジャーナル『Science Advance』に1月17日付けで掲載されています。
https://advances.sciencemag.org/content/6/3/eaay5849
極端に小さな世界
今回の研究の課題は、化学結合の長さが0.1〜0.3ナノメートル(ナノは10億分の1)という原子のペアを撮影することでした。
通常の光学顕微鏡は、可視光を使って物を見ていますが、可視光は原子より波長が長いためあまり小さいものには干渉できず見ることができません。
そこで登場したのが電子顕微鏡です。電子は可視光より遥かに波長が短いため、原子同士の隙間まで見ることができます。
可視光より波長が短ければいいなら、X線じゃだめなの? と思う人もいるかもしれません。しかし、X線のような短波長の光は非常にエネルギーが高いため、観測対象に影響を与えずに見ることが難しくなります。
また、X線はレンズで屈折させにくいというのも問題の1つです。顕微鏡には当然レンズが必要です。電子ならば磁力を使ったレンズで簡単に屈折させることができるので、顕微鏡の利用には都合がいいのです。
今回使用されたのは透過型電子顕微鏡(TEM)と呼ばれるタイプです。これは影絵のように電子を透過させて、その投影図を見るタイプの顕微鏡です。
撮影されているのはレニウム(原意番号75番,Re)の原子で、レアメタルの一種です。原子番号の大きい重い金属が使用されたのは、軽い元素よりTEMでの観察がしやすいためです。
実際映像でレニウムは周囲のカーボンチューブの炭素よりもはっきりと黒い影として識別することができます。
そして、直径1ナノメートルほどのカーボンナノチューブを利用することで、原子や分子の動きを制限し、正確な位置を把握して撮影することが可能になりました。