脊椎動物における主な繁殖方法は、卵生か胎生です。
私たちヒトは、母胎の中である程度まで育てる胎生ですが、鳥類や爬虫類は卵生が多くを占めます。
しかし、生物種豊かなオーストラリアには、卵生と胎生の両方が同時にできる不思議な生物がいます。
「スリートード・スキンク(Saiphos equalis)」と呼ばれるトカゲです。
その特性は数年前から知られており、卵生と胎生を同時期に行う生物としては、地球上でスリートード・スキンクのみと言われています。
今回、シドニー大学により、その詳しい生態が新たに報告されました。
場所によって「卵生」と「胎生」を使い分ける⁈
このトカゲは、オーストラリアの東岸地帯に土着の生物で、手足がとても小さいため、パッと見はヘビにしか見えません。
しかし、よく見ると3本の指(スリートード)が生えた小さな手を持っています。
今回、研究チームが観察したスキンクは「妊娠期間中に3つの卵を産み、そのわずか数週間あと、胎生で新生児を産んだ」と報告されています。
研究主任のカミラ・ウィッティントン博士は「同時期に卵生と胎生が確認できたのは初めてのこと」と言います。
実は以前の研究で、スキンクは、同種内でも住んでいる場所で卵生か胎生を使い分けていることが知られていました。
例えば、ニューサウスウェールズ州の寒冷な高地では胎生、海岸沿いの温暖な低地では卵生で子どもを産みます。
このことから、スキンクは、環境に合わせて生存に有利な方法を選んでいると考えられていたのです。
また、スキンクが卵生を示しても、中の胚は比較的よく成長した段階にあり、産卵からわずか数日で孵化することも確認されています。彼らは、出産のギリギリまで待って、卵生と胎生のどちらが有利かを見極めているのでしょう。
一方でカミラ氏は「スキンクは今まさに卵生から胎生への進化段階にあり、どちらに舵を切るべきか決めかねているのかもしれない」と指摘します。
卵生と胎生にはそれぞれデメリットがあり、前者は厳しい気候や天敵など孵化するまでに危険があり、後者は母体への負担が大きいのです。
それから、現在は温暖化が進む時期でもあるので、胎生への踏ん切りがつかないのかもしれませんね。
脊椎動物の繁殖形態は、もともと卵生からスタートし、その後、数千〜数百万年の進化の過程で胎生が発達してきました。
スキンクの柔軟なアプローチは、卵生から胎生が派生した進化の秘密を解明するヒントとしても大いに期待されています。
研究の詳細は、4月3日付けで「Biology Letters」に掲載されています。