自転を超えて吹き続ける風「スーパーローテーション」
金星と地球では大気循環が大きく異なっています。
金星で起こるスーパーローテーションは自転と同じ方向の西向きの風で、高度が上がるほど強くなります。高度約50~70kmの雲層上端がもっとも強く、ここでは約秒速100mという突風が吹いています。
これは金星の自転の60倍という速度です。
またこの風は赤道付近でもっとも強くなります。金星の自転軸はほぼ正立の状態のため、季節がありません。そのため太陽光の加熱は赤道で最大となり、極で最小の状態になります。
けれど、金星の極はそれほど寒くはありません。これは南北に熱を循環させる大気の流れがあるためだと考えられています。
これまでは、こうして起きる乱流がスーパーローテーションを加速させていると考えられていました。
しかし、今回の研究は、むしろこれらの乱流はスーパーローテーションを減速させる作用を働かせていることが明らかになったのです。
では、なにがそんな凄まじい大気の流れを生んでいるのでしょう?
それが、非常に長い金星の昼と夜によって生じる惑星の寒暖差です。こうした寒暖差は地球でも存在し、昼の熱せられた大気が夜の冷却された大気へ流れ込む「熱潮汐波」を生み出しています。
潮汐とは海で起きる潮の満ち干のことで、地球ではこれは月の引力が引き起こしていますが、大気中では昼夜の寒暖差で潮の満ち干のようなことが起きるのです。
金星では、南北でゆっくりとした大気の循環があり、東西方向にはスーパーローテーションによる凄まじい大気循環が起こっています。そしてこの熱潮汐波を介した循環によって、太陽から受けた熱を効率よく惑星全体へ広く行き渡らせているのです。
惑星はその星ごとに異なる角度の自転軸と自転速度をもっています。これは惑星全体の大気の循環に対して大きな影響をもたらすものです。
地球に置いても極端な温暖期には、ある程度のスーパーローテーションが起きていたという説があります。また、系外惑星などでは、金星と似たような非常にゆっくりとした自転をして、星の反面を長時間恒星に向けているものもあります。
金星の調査はこうした惑星の大気循環を理解するために、応用できる重要な研究になるのだといいます。
温暖化で地球の大気の循環も複雑なものに変化しつつあります。こうした研究から、地球の気象の問題も理解していけるようになるかもしれません。
この研究は、北海道大学・JAXA宇宙科学研究所などの研究者からなる国際研究グループより発表され、論文は権威ある科学雑誌『Science』に4月26日付けで掲載されています。
https://science.sciencemag.org/content/368/6489/405