太陽系をダイナミックに移動していたリュウグウの歴史
クレーターの色が明確に赤と青に分かれていることから、リュウグウ表面の赤化はかなり短期間の間に起こった出来事だと考えられます。
また、青いクレーターの数や密度から、リュウグウの赤化が起きた年代はおよそ30万年前から800年前と推定されます。
タッチダウンで舞い上がった赤黒い粒子は、この太陽接近の際に焼かれた表面物質が、長い年月の中で破砕されて砂のように表面を覆ったもののようです。
赤道や極点にあたる位置はこうした砂状に砕けた粒子が流されてしまい、内部の青白い層が露出しました。そして、赤黒い粒子の多くは中緯度の領域に寄せ集められ、現在のような分布になったと推定されるのです。
この表面の受けた熱の痕跡から考えると、リュウグウはかつて水星軌道より内側まで太陽に接近しており、800度近い高熱にさらされたと考えられます。
水星探査機などは、太陽系の内側の軌道へ移動させる際に惑星の重力を使ったスイングバイ航法というものを用いますが、小惑星も同じ様に惑星の重力の影響によって、かなりダイナミックに公転軌道を変える場合があります。
現在は地球と火星の間を回るリュウグウも、かつては太陽に水星より接近するような、ダイナミックな軌道を描いて太陽系を回っていた歴史があるようです。
「はやぶさ2」は、この熱で変成を受けた赤黒い粒子と、もっと内部の青白い物質の両方の試料を採取できていると考えられています。
現在「はやぶさ2」は地球への帰還途中ですが、この試料の分析は、より多くのリュウグウのたどった歴史を解明できるものと期待されています。
小惑星の軌道が惑星重力の影響で大きく変わることは知られていますが、これはその初めてとなる物的証拠です。さすがはやぶさ!
この研究は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と東京大の諸田智克准教授らの研究チームより発表され、論文は科学雑誌『Science』に5月8日付けで掲載されています。