即応抗体(IgM)と専門抗体(IgG)
ウイルスに感染すると、人間の体はウイルスを排除するための抗体が生産されます。
私達が細菌やウイルスに感染したときに最初に生産される抗体が「IgM抗体」で、早期対応のための幅広いウイルス認識力を持っています。
また、IgM抗体によってある程度ウイルスの認識が進むと、対象となるウイルスの排除に特化した「IgG抗体」が作られます。
IgG抗体は感染を排除した後も残り続けるため、再度ウイルスが侵入したときに素早くIgG抗体が増殖でき、2回目の感染を防止します。
そのため、上の図のように、IgM抗体とIgG抗体のどちらが多いかを調べることで、患者が似たようなウイルスに感染した経験があるかどうかの調査が可能になります。
もし日本人が新型コロナウイルスに対して免疫力を持っていた場合、IgM抗体とIgG抗体の増加パターンは上の図の右側のように、IgG抗体の増加のほうが先に高くなるはずです。
では、実際の調査結果をみてみましょう。
日本人は新型コロナウイルスに対して免疫がある?
上の図は、東京大学をはじめとする研究者が、新型コロナウイルスに感染した日本人のIgM抗体とIgG抗体の増加パターンを示したものになります。
図が示す通り、日本人の感染者の多くが即応型のIgM抗体より先に、学習によって生まれるIgG抗体を多く生産していました。
このことは、日本人の多くが新型コロナウイルスに対する免疫学習を、既に行っていたことを意味します。
また今回の研究では、IgM抗体の生産が緩やかな場合には、重症化しにくいことが明らかになりました。
重症化はウイルスによる直接的な細胞の破壊ではなく、免疫の過剰反応が原因として知られています。
感染の初期において、広範な影響力を持つIgM抗体よりも、専門化されたIgG抗体が多く生産されることで、免疫も過剰応答を避けることができると考えられます。
研究者は、免疫を持たせる原因となった存在として、東アジア沿岸部に存在する未知のコロナウイルス(SARS-X)の存在を示唆しました。
また、2003年にSARSウイルスが発生した以降も、東アジア地域では断続的にコロナウイルスの発生が続いていた可能性も言及しています。
そしてこれらの未確認のコロナウイルスが、東アジア人の多くに「先行して風邪として感染」した結果、新型コロナウイルスに対する免疫力が獲得されたと結論づけているのです。