「食虫植物」は、その名の通り、虫を捕食する習性を持つ肉食性の植物です。
最近では、観葉植物としてすっかり市民権を得ていますが、いつごろ誕生して、どのように進化してきたのかはあまり知られていません。
ドイツ・ヴュルツブルク大学の研究チームは、今回、その進化の秘密をひもとくため、現生する3種の食虫植物を調べました。
その中で、祖先となる非肉食の植物が食虫習性を獲得するまでに3つの進化ステップがあったことが明らかになっています。
食虫植物は、一体どんな進化の歴史を歩んできたのでしょうか。
食虫植物になるまでの「3つのステップ」
今回、ゲノム解析と構造分析のため、数百種以上いる食虫植物の中から、主要な3種類がピックアップされました。
1つ目が、知名度の高い「ハエトリグサ」で、トゲのついた2枚の葉で挟み込むように捕虫する植物です。
2つ目は、水生の「ムジナモ」で、ハエトリグサと同じく二枚貝のような捕虫器官を持ちます。
3つ目は、「モウセンゴケ」で、葉表面に生えた小さな毛から粘液を出して虫を捕らえます。
これら3種を詳しく調べた結果、食虫習性を獲得するまでの3ステップが発見されました。
ステップ1:7000万年前の遺伝子変化
1ステップ目は、約7000万年前に3種の祖先である植物が、ゲノム(遺伝子情報のすべて)のコピーを取ったことです。この複製により、葉や茎、根っこのコピー遺伝子が解放されて、多様化し、他の機能を発達させるようになりました。
これにより、葉や茎が捕虫器官へと変化していったのです。
ですから、食虫植物が現れ始めたのは、まだ恐竜がいた7000万年前となります。
ステップ2:従来の遺伝子の消失
2ステップ目は、虫から新しい栄養素を取り始めたことで、従来の葉や根っこがいらなくなったことです。捕虫により、肉食に関係のない遺伝子の多くが消失を始めました。
その結果、上の3種は、これまでに遺伝子配列が解明された植物の中でも、最も遺伝子の乏しい植物であることが判明しています。
ステップ3:特殊な捕虫器官の獲得
3ステップ目は、食虫植物たちは、各自の生息環境に見合った捕虫器官を進化させたことです。
食虫植物は、すべてハエトリグサのように葉っぱでバクッと捕虫するばかりではありません。この他に、葉っぱが落とし穴式になっている「ウツボカズラ」や水中の袋に誘い込む「タヌキモ」などがいます。
また、モウセンゴケは、かつて(花粉媒介者としての)昆虫を誘引する蜜を分泌していた腺を、トラップ用の粘着液を作り出す器官に変えたのです。
研究主任のイェルク・シュルツ氏は「これら3ステップを数千年かけて通ることで、現在の多様な食虫植物へと発展していった」と話します。