予想より100倍速く遠ざかるタイタン
その研究の1つはアストロメトリー(位置天文学)と呼ばれる方法で、タイタンの背景にある星との位置関係を正確に測定するものです。
もう1つは放射測定と呼ばれる方法で、こちらはタイタンの重力影響を受けたNASAの土星探査機カッシーニの速度を測定したものです。
これらの測定の結果、タイタンの移動速度は標準的な潮汐理論の推定よりはるかに早いことがわかりました。これは2016年にフラー氏が提案した理論予想とも一致しています。
フラー氏の理論では、タイタンは土星を強く振動させる特定の周波数で重力的に押し出されていると予想されています。これはブランコを漕ぐとき、足を大きく振ることで、より勢いよく高い位置へと移動できる原理に似ています。
これによりタイタンは今までの予想よりずっと速い、年間11センチメートルという速度で土星から遠ざかっていることがわかったのです。
これは従来予想の100倍以上の速さです。
この原理は「共鳴ロック理論(The resonance locking theory)」と名付けられていて、現在は他の連星系や、太陽系外惑星でも同様のことが物理学的に起こるかどうかの研究が進められています。
こうした結果は13年間土星を観測し続けたカッシーニから得られたデータをもとにしています。
カッシーニの行ったまったく異なる2つの測定データから、完全に一致する結果が得られたことで、タイタンの予想よりはるかに速い移動速度を明らかにすることが出来ました。
この研究は、元NASAジェット推進研究所の研究者で、現在はパリ天文台に所属するValéry Lainey 氏を筆頭とした研究チームより発表され、6月8日付で天文学に関する科学雑誌『Nature Astronomy』に掲載されています。
https://www.nature.com/articles/s41550-020-1120-5
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