ケイ素生命は妥当なのか?
化学反応とは、溶けて融合することだと言いかえることができます。
ケイ素は多様な化学変化を起こしますが、果たして自然の中でそれほど多様に化学反応できるのでしょうか?
簡潔にいえば、現実的とは言えません。
有機ケイ素化合物は、自然の中ではあまり多くなく、水中や酸素の豊富な環境では、ケイ素は素早くケイ酸塩の岩石を形成してしまうため、生命に変化することはほぼありえません。
しかし、今回問題にしているのは地球とは異なる環境の生命誕生の可能性なので、もっと極端な環境ではどうなのか、考えてみましょう。
土星の衛星タイタンのように、酸素よりも炭素が多く非常に冷たい環境ではどうでしょうか?
研究の結果、炭化水素系溶剤はケイ素の溶解に適していることがわかりました。タイタンの表面にはこれに適した液体メタンがあります。
しかし、液体メタンは超低温で、この環境ではどんな化合物でも溶解することが難しくなります。こうなると、タイタンのような低温環境はケイ素生命誕生には不利になってしまいます。
高熱の環境ならばどうでしょうか? ケイ素生命はケイ酸塩の岩石に生息する微生物という仮定もされています。
しかし、こうした高熱環境ではケイ素と酸素の結合が壊れてしまうため、やはり化学的にうまくいくとは考えづらいでしょう。
唯一、研究者たちの見つけたケイ素生命をサポートしそうな存在が「硫酸」です。
硫酸は少なくとも理論的には、有機ケイ素の化学的な多様性を引き出すことが可能なようです。
このため、もしケイ素を構成要素とする生命がいるとすれば、彼らは金星の雲や、木星の衛星イオの地下のような硫酸の多い場所に魅力を感じるかもしれません。
なんにせよ、ケイ素は複雑な化合物を生み出すことが可能ではありますが、自然の中ではそれを溶解させる条件を満たすことが炭素に比べて非常に難しいところがネックになります。
研究はさまざまな組み合わせで可能性を探りましたが、ケイ素生命の存在は難しいと言うほかないようです。
真面目に検証した結果、可能性が低いということになりましたが、広い宇宙に、地球生命とは全く異なる形態の理解を超越した生物がいるという空想は止めようがないでしょう。
いつかそんな生命を見てみたいものです。
この研究は、マサチューセッツ工科大学の研究者チームにより発表され、論文は生命科学をテーマにしたオープンアクセスの査読付き科学雑誌『Life』に6月10日付けで公開されています。
https://www.mdpi.com/2075-1729/10/6/84/htm
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