終末世界に向けた準備?
研究者によると、「良い映画だと視聴者は引き込まれて登場人物の視点に立って物語を眺めるため、意図せず描かれたシナリオで混乱する社会のリハーサルができている」と述べています。
こうした映画のファンを自称する実験参加者たちは、パンデミックが起きた際にトイレットペーパーを除き、どういった物資が不足しがちかということについて、かなり正確な知識を持っていました。
また、ウィルスの蔓延した社会では人々が孤立しがちになり、他者に異常な恐怖を覚えるようになること、どういった偽情報が広まりやすかなど、危機に冷静に対処するための役立つ知識も備えていました。
映画「コンテイジョン」でも誤った奇跡の治療法が拡散されて混乱が起きるシーンが登場します。これはコロナウィルスのHIV治療薬や抗マラリア薬が特効薬になるというデマ情報と似た印象を受けます。
こうした映画に親しんだ人たちは、デマ情報が出たとき、自然と懐疑的になれる心構えができています。
トランプ大統領はこうした情報に乗せられて、抗マラリア薬を確保することを推奨し後に撤回していますが、トランプ氏は終末映画はあまり親しんでいない人なのかもしれません。
また、研究ではパンデミックの混乱や自粛生活の中で、人々が感じている不安、うつ、苛立ち、不眠のレベルなどについても調査しました。
この調査においても、終末映画のファンは他の人達より精神的な苦痛が少ないという結果が得られました。
彼らは社会が崩壊することに対して精神的にも実用的にも準備ができていて、より柔軟に対処できていたのです。
このため、研究者は人々が終末論的な映画に惹かれる理由の1つとして、社会的な混乱を安全に体験して準備するためだという考えを示しています。
いざ目の前に非日常的な危機が迫ったとき、こうした映画に慣れ親しんでいる人は「あ、これ進研ゼミでやったやつだ」というノリで対処できるのでしょう。
映画を通して混乱した状況の予習ができているのです。
仮想世界は想像力を養う力を持っています。世界の終わりがシミュレートできている人たちは、そうでない人たちと比較したとき、代替的な経験を通して有利な位置に立つことができるのです。
この研究は、シカゴ大学の心理学者Coltan Scrivner氏により発表され、論文は現在プレプリントサーバーpsyarxiv上で公開されています。
10.31234/osf.io/4c7af
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