想像のイメージと視覚を処理するときの脳活動
MRIの結果では、目の網膜から第一次視覚野以降の脳の領域は、視覚と想像の両方で活性化されています。
しかし、イメージの場合、網膜から第一次視覚野までの脳の活性化はあまり明確でなく、ある意味で拡散していまました。
これはAIでも同様です。AIの場合、元画像の認識では、網膜と第一次視覚野を表す低階層の領域が明確に活性化されます。しかし、イメージ画像の生成時には、この明確な活性化は拡散されてしまいます。
視覚野を超えた領域では、視覚の場合も想像のイメージでも、活性化の状態は似ていました。
つまり、現実を見た場合と、想像のイメージを見た場合では、網膜から第一次視覚野までの脳内で異なる何かが起こっているのです。
研究者Naselaris氏は結果を次のように語っています。
「想像しているときの脳の活動は、あまり正確ではありません。私たちは、心の中でイメージを思い浮かべるときぼやけた曖昧な感じを経験しますが、それは脳の活動に何らかの根拠があるのです」
イメージで浮かぶおぼろげな感覚は、私たちが現実と夢のどちらを見ているのかを区別する場合にも役立っています。
PTSDの患者などは、トラウマとなった映像が頭に浮かんだとき、それが曖昧なイメージではなく、まるで目の前に迫る現実的な危機のように感じるといいます。
脳の中には、トラウマのようなものの鮮明なイメージを生成しないように調節するシステムがあるようです。PTSDや幻覚などの現象は、このイメージを朧気にする調節機能の障害かもしれないと研究者はいいます。
精神的なイメージがどのように機能しているか理解することは、こうした精神的なイメージの乱れを特徴とする精神疾患の解決にも役立つかもしれません。
これは今後の研究課題であり、現状の成果では、精神的なイメージと精神的健康との関連性については明らかになっていません。この解明にはより多くの研究が必要となります。
また、今回の研究は、視覚と想像の神経学的基盤を探っただけではなく、人工知能の能力向上にも役立つものです。
機械が行っていることと、脳の活動がどの程度異なるのかについて、今回の研究は重要な手がかりを提示しています。機械学習をより脳に近いものにするために、こうした研究が利用されることになるでしょう。
まだ曖昧な結果しか出せていませんが、この研究に限界があるのは、実験参加者の想像したイメージを現状では完全に再現できないためです。
そのため研究者たちは、現在、心のイメージを見える画像に変換する方法を開発中です。
現在は絵の上手い人でもないと、頭の中のイメージを視覚的に提示することはできませんが、いずれは絵が下手な人でも、頭の中にある視覚的なイメージをアウトプットできるようになるかもしれません。
絵の描けないイラストレーターやデザイナーが登場したりするのでしょうか。
この研究は、サウスカロライナ医科大学の研究チームにより発表され、論文は、生物学全般を扱う科学雑誌『Current Biology』に4月30日付けで掲載されています。
https://doi.org/10.1016/j.cub.2020.04.014
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