脳トレで幻肢痛を治療する
先行研究では、治療効果に有意差があるか、効果の持続性はあるか、といった問題までは確認できていませんでした。
そこで、今回発表された研究では、失った肢を仮想映像として映し出し、それを患者の意志に合わせて動かすというBCIで、幻肢に関連する脳活動を弱める訓練装置を開発しました。
この装置の仮想的な肢は、患者本人の健常な方の肢の映像を鏡反転して作られています。
鏡治療と異なるのは、この装置では先行研究で示されたように、健常な手足を動かすときに見られる脳活動の信号に近いものが検出されたときだけ、仮想の手足も反応するという点です。
患者の幻肢痛の強さの評価には、VAS(visual analogue scale)というものが使われました。
これは横線グラフを被験者に見せて右端が考えられる最悪の痛み、左端が痛みなしとした場合に、今感じているのはどの辺りかをマークしてもらう方法です。このときのマークまでの長さで痛みの程度を測ります。
実験は装置を利用した効果が本当にあったか確認するため、1つは偽訓練として比較対象実験を行っています。
ここでは実際に被験者の脳活動に合わせて画像を動かす訓練と、脳活動に関係なくランダムに画像の肢を動かす偽訓練という形でそれぞれ3日間行われました。
結果、訓練後に幻肢痛の痛みは平均して30%以上低下し、痛みの減退は5日以上継続することが明らかになったのです。
痛みの評価をグラフ化したものを見ると、訓練をきちんと行った場合は優位に痛みが下がっていて、それは訓練後も5日以上持続しているのがわかります。
今回の研究では12人の被験者が参加しましたが、効果があり痛みの減少を報告した人は9人でした。
やはり現状、すべての人に効果が認められるわけではないようです。
ただ、被験者のうち7人が鏡治療の経験者でしたが、そのうち鏡治療に効果があったと答えた人は3人でした。この7人の中で今回の治療に効果を感じた人は5人だったため、鏡治療より広い範囲の患者に治療効果は期待できると考えられます。
この結果から見ると、完全に確立された治療法となるにはまだまだ研究が必要そうです。
しかし、幻肢痛のメカニズムや有効な治療方法の発見に向けて着実に近づいているでしょう。
脳のトレーニングで治るとは、やはり幻肢痛は不思議な症状ですね。
この研究は、大阪大学の栁澤琢史教授と齋藤洋一特任教授らの研究グループより発表され、論文は神経学に関する科学雑誌『Neurology』に7月16日付けで掲載されています。
https://n.neurology.org/content/early/2020/07/16/WNL.0000000000009858
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