ベテルギウスで何が起きたのか?
Dupree氏のチームの観測では、ハッブル宇宙望遠鏡を使ってイオン化マグネシウムを測定することで、ベテルギウスの外気を調査していました。
するとこれは2019年9月から11月にかけて、時速32万キロメートルという速度で外側へ移動していたのです。このとき、このポイントは通常の2~4倍もの明るさで輝いていました。
2020年2月になると、星の外気の振る舞いは正常に戻っていましたが、可視光観測ではベテルギウスが減光し続けていました。
チームはこの事実から、ベテルギウス南東で大規模な爆発があり、爆発で吹き上がった物質が何百万キロメートルも上層へと移動した後、そこで冷えて塵の雲を形成したと考えています。
これはハッブルの紫外線観測や可視光で確認された事実と一致するものです。
塵の雲はちょうど地球からの視線方向を隠したため、ベテルギウスの南側が極端に減光して見えたのです。
上の画像はその様子を示したものです。
物質を宇宙まで巻き上げた爆発の原因はわかりません。しかし、ベテルギウスは420日周期で膨張と収縮(減光と増光)を行う変光星です。
ベテルギウスが外向きに脈動するとき、大気を介してプラズマの流出を推進させた可能性があります。
ベテルギウスを含め、恒星は常に質量を宇宙へ流出させて失い続けています。しかし、ベテルギウスはこの数カ月の爆発によって、南半球から通常の2倍近い物質を失ったと推定されます。
ベテルギウスについては未だに謎な部分も残っていますが、この騒動の一部始終を最初から最後まで観測していたハッブル宇宙望遠鏡の示す事実が、もっとも真実に近いのかもしれません。
なんにせよ、これらの研究を行う天文学者たちの一致した見解では、ベテルギウスに差し迫った超新星爆発の可能性は低いだろうということです。
この研究は、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの副所長Andrea K. Dupree氏が率いるハッブル宇宙望遠鏡観測チームより発表され、天文学に関する科学雑誌『The Astrophysical Journal』に8月13日付けで掲載されています。
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/aba516