臭いの発生メカニズム

原因菌が特定されると、ラデン氏らは次にチオアルコールの生成メカニズムを調べました。
結果、人間のワキや陰部などの毛穴に存在する、汗腺(アポクリン腺)から分泌される無臭の物質(Cys-Gly-3M3SH)を、原因菌が特殊な酵素(ShPatB)を使って分解し、チオアルコールを生産していることがわかりました。
そこでラデン氏らはこの特殊な酵素の遺伝子を切り取って、他の体臭とは無関係なブドウ球菌に組み込む実験を行いました。
もし酵素を組み込まれた無関係な菌からもチオアルコールが生産されれば、悪臭の原因を1種類の菌の、1種類の酵素活性経路という極めて狭い範囲にまで限定することができます。
実験を行った結果、予想は的中し、酵素遺伝子を組み込まれた菌も汗からチオアルコールを生産するようになりました。
人類を長年悩ませてきたワキガや体臭は、たった1種類のマイナーな常在菌がもつ、たった1つの酵素が原因だったのです。
つまり、臭いを消すには肌に負担の大きい強烈な滅菌や分厚いコーディングではなく、原因菌(Staphylococcus hominis)の持つ特殊な酵素機能をブロックする薬を作ればいいことが分かりました。