暗い星間雲をシミュレートした暗黒化学
今回の発見は暗黒化学(Dark chemistry)という学問から明らかになったといいます。
あまり聞き慣れない単語ですが、研究の筆頭著者であるクイーン・メアリー大学のセルジョ・ヨッポロ氏は「暗黒化学は、高エネルギー放射線を必要としない化学を意味します」と説明しています。
もっとも単純なアミノ酸とされるグリシンは、彗星などから発見されていますが、宇宙でグリシンが形成されるためには高いエネルギーが必要だと考えられていて、研究されるグリシンの形成環境はかなり制限されていました。
通常、宇宙における化学では分子の生成のためには、紫外線照射(高エネルギーの放射線)が必要だと考えられているのです。
しかし今回の研究は、そうした制約なしにグリシンが凍結したチリの表面で形成できる可能性を示しています。
研究チームはまず実験室で、宇宙の暗い星間雲の状態をシミュレートしました。
星間雲に浮かぶ10~20K(ケルビン)の冷たいチリの粒子は、CO, NH3, CH4, H2Oが豊富な氷の薄層に覆われています。
ここで原子同士が衝突して、断片化したものが再結合すると、グリシンの前駆体(形成される前段階の分子)であるメチルアミンが最初に生成されるとわかったのです。
このメチルアミンは、世界で初めて彗星着陸の調査が行われた「チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星」のコマ(彗星を取り巻くガスやチリ)からも検出されています。
そして研究チームは宇宙空間でメチルアミンから、グリシンを形成できることを実験から確認したのです。