すべては「偶然の産物」だった
最初に農業が誕生したのは、エジプト〜メソポタミアあたりだといわれています。
その理由について、ジャレド・ダイアモンドは「まったくの偶然」と言い切ります。
まず、農業をはじめるには、すぐに栽培可能な植物を発見できなければなりません。それが、西アジアの「パンコムギ」でした。
これに対して、アメリカのトウモロコシは栽培可能な品種に改良するまでに長い年月がかかりました。
家畜も同じです。
人が家畜にできる動物はウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタのわずか5種で、地域限定の9種(ラクダ、ラマ、水牛、トナカイなど)をくわえても14種しかいません。
家畜にできる条件は、
・エサを食べ過ぎない(ゾウのように食べ過ぎると人の方が破産する)
・成長スピードが速い(人の方の老化が速いと意味がない)
・繁殖が簡単(人に警戒心があると交尾しなくなる)
・気性が穏やか(凶暴だと飼育できない)
・パニックにならない(柵に追突して死ぬ可能性がある)
の5つ。
これを満たした5種が、たまたまユーラシアにいて、南北アメリカにはいなかったのです。
さらに偶然は重なります。
世界地図を見ると、南北アメリカやアフリカ大陸は縦(南北)に伸びているのに対し、ユーラシアは横(東西)に伸びているのがわかるでしょう。
すごく単純なのですが、緯度によって気候の差が大きくなると、農耕・牧畜の条件が変わってしまうので、南北方向には広がりにくいのです。
ところが、ユーラシア大陸では、東から西まで約1万2800キロもあるのに、紀元前後にはアイルランド〜日本列島まで十分に広まっていました。
要するに、ヨーロッパの征服者たちは、たまたま地理的・生態的偶然に恵まれており、最初から「銃・病原菌・鉄」を手に入れやすい場所にいただけなのです。
ダイアモンドは「文明の格差は、人種的な知能の差ではなく、偶然によって生まれた」と結論します。
一方で、そもそも征服した側を「勝者」、征服された側を「敗者」と二分して良いものでしょうか?
確かに、征服者の文明は、大量の人口と物資を生み出し、戦争に強い王国を作り上げていくという点では有利でしょう。
しかし、この文明こそが人類を存亡の危機に陥れてきたのも事実です。
反対に、先住民たちには、小さな集団で豊かに暮らす「生活の知恵(文化)」がありました。
人類の平和へのヒントは、こちらにこそ隠されているのかもしれません。