動物の冬眠を人間の冬眠に変換する
最近の研究では、人間と進化的に近い霊長類の冬眠が着目されています。
霊長類が冬眠をするというのはかなり珍しい話ですが、マダガスカル島に住むハイイロネズミキツネザルは、冬になり餌が減って気温が低下すると冬眠を行うことがわかっています(長いので以後、キツネザルと表記します)。
このキツネザルの冬眠で特徴的なのが、体温を極端に下げることなく冬眠状態に入れるという点です。
この驚異の能力を可能にしているのがマイクロRNAと呼ばれるものです。
マイクロRNAは、遺伝子コードを書き換えることなく、遺伝子の発現自体を制御することができます。つまり遺伝子のスイッチなのです。
このマイクロRNAを調べれば、命を守るためにどの生物学的プロセスがオンの状態で保たれていて、どのプロセスはエネルギー節約のためにオフにされているかを知ることができます。
キツネザルのマイクロRNAを調べると、いくつかは筋肉の消耗を抑えようとしていることがわかります。
また、他のマイクロRNAは、細胞死の防止、不要な細胞の成長を鈍化または停止、消費の早い糖質から燃焼の遅い脂肪への燃料の切り替えを行っていることがわかりました。
これはかなり画期的な発見です。しかし残念ながら、冬眠を解明するためのパズルの一部でしかありません。
キツネザルが具体的にどうやって細胞を守っているのか、遺伝子レベルのコントロールを実現しているのか、冬眠を乗り切るための必要エネルギーをどうやって蓄えているのか、まだそういった冬眠の側面は明らかになっていません。
しかし、凍結や酸素欠乏、高温や乾燥気候など、極端な環境下でも生命を維持する生物はいろいろと知られています。
そこでは、このマイクロRNAが重要な役割を果たしているのです。
マイクロRNAの研究は、今後人間が宇宙という極限環境で生存するための重要な手がかりを秘めています。
いずれ、それを自由に利用できる日が来るかもしれません。