なぜ明確な排卵日が消えたのか? 2つの仮説
動物の世界において、メスが自分の発情や排卵日をオス知らせることは、種の繁栄にとって非常に有効な手段です。
高確率で妊娠する時期をオスに伝えることで、子孫を残せる確率が格段に上がります。
そのためイヌやネコは発情期が存在し、一部のサル(ヒヒ)では排卵日になると、お尻(外性器)が赤く色づいてオスに自動的にアピールがなされます。
しかし人類の女性は発情しないばかりか、たとえ本人であっても、排卵日を知覚することはできません。
子孫繁栄にとって強力なツールを、なぜ人類は捨ててしまったのでしょうか?
この疑問に従来は、女性が男性を長期間自分の元に引き留めておくためだとしていました。
排卵日が明確で時間が限られている場合、男女両方にとって状況が「急ぎ」であるため男女のパワーバランスは等しく、男性が女性に貢ぐ(投資する)ことはほとんどありません。
ですが、排卵日がわからない場合、男性は女性に常に貢ぎ続けて、自分への好意を繋ぐ必要があります。
そして持続的な女性への利益の提供は、結果的に妊娠と出産の成功率を高め、子孫繁栄につながる…。
この投資説(男性が女性に貢ぐこと)と呼ばれる仮説は、これまで、それなりの説得力をもって受け入れられてきました。
現実世界をみても、投資説の正当性をうかがわせる「貢ぎ」の事例にあふれています。
しかし今回、オクラホマ州立大学の研究者たちは、排卵日の隠匿について異なる説(競争説)を押し出しました。
競争説では、女性が排卵日を隠すように進化した原因を、女性同士の競争を緩和するためだとしています。
排卵日が明確に提示されてしまう場合、恋のライバルにとって妨害する絶好のチャンスとなるため、お互いの攻撃が無限にエスカレートする可能性があるからです。
一方、排卵日が女性本人にもわからない場合、ライバルも常に監視することはできないため、競争は激化しません。
以上が、人類女性から明確な排卵日が消えた原因を示す2つの仮説(投資説・競争説)です。
しかし投資説も競争説も、決め手に欠けていました。
実証するためには、原始時代の環境に被験者を放り込んで、数世代にわたって観察するという非人道的な社会実験が必要だったからです。
しかし今回、研究者たちは代役をたてることで、この社会実験を疑似的に行うことに成功しました。