疑似人体は禁断の人体実験の代わりになる
近年の飛躍的な培養技術の進歩により、たった1つの細胞から脳を含む人間のあらゆる臓器を培養することが可能になっています。
これら人工培養された臓器は「オルガノイド」と呼ばれており、創薬の分野において、貴重な人体のデータを提供する実験対象となっています。
一方、近年の研究によって、脳と体の深い関連がますます明らかになってきました。
脳で感じる悩みが腸の痛みとなるように、腸での不具合は脳(精神)にも反映されます。
しかし脳と体の興味深い関連性のほとんどは、マウスなどの動物実験によるデータに過ぎませんでした。
脳は人間性にかかわる最もデリケートな臓器であり、生きている人間の脳を顕微鏡撮影のためにスライスしたり、遺伝子を取り出すために磨り潰すことは、倫理的に許されないからです。
そのため、動物実験の結果が人間にも当てはまるかを確かめるのは容易ではありませんでした。
そこで今回、マサチューセッツ工科大学(通称: MIT)の研究者たちはアメリカの国防高等研究計画局(通称:DARPA)の支援を受けて、脳を含む培養臓器を組み合わせた疑似的な人体を作成し、人体実験の代理としました。
この新たな人体は、人工培養された脳、肝臓、腸、結腸を備え、それぞれの臓器は免疫細胞を含む人工血液によってつながっています。
そのため生きている人間を用いることでしか確認できなかった、臓器同士の相互作用をリアルタイムで観察可能になり、解剖による倫理的な問題を克服しています。
またそれぞれの臓器はカートリッジ化されており、容易に交換可能とのこと。
このカートリッジ化の恩恵は非常に大きく、既存の実験では不可能であった、同じ体に対して、異なる脳をセットし比較することが可能となっています。
今回の研究では、同じ体に対して正常な培養脳とパーキンソン病を発症させた培養脳の2種類が交互にセットされ、相互関係が比較されることになりました。
2つの培養脳は、体との接続でどんな反応を起こしたのでしょうか?