ブラックホールの星空を映した低周波電波観測
この画像は星空ではなく、アクティブな超大質量ブラックホールが映された夜空だといいます。
超大質量ブラックホールは何もない空間では見ることはできませんが、周囲に吸い込む物質が多いアクティブな状態のとき、巻き込んだ物質が作りだす降着円盤からさまざまな周波数の電磁波を放出します。
この中から、無線電波の低周波だけを観測したのが今回の画像です。
ラジオなどの無線帯域の低周波数では星の輝きは見えません。
ここで見えるのは、宇宙の大希望構造に拡散した物質、超大質量ブラックホールから放出されたジェットの減衰、磁場が主星と相互作用している系外惑星などです。
これは低周波で宇宙を撮影した最大の画像ですが、それでも空の2%しか映し出されていません。
しかし、研究者はこの夜空の地図を作り出すために、数年の歳月を費やしました。
その理由は、低周波の観測が地上からでは非常に困難なためです。
「これは、信じられないほど難しいデータに関する長年の研究の結果です」
そう語るのは、ドイツのハンブルク大学の天文学者フランチェスコ・デ・ガスペリン氏です。
この観測を可能にしたのは、オランダ電波天文学研究所(ASTRON)が運用する電波望遠鏡の低周波電波干渉計「LOFAR(ローファー)」です。
この電波望遠鏡は、ヨーロッパ各地の52カ所に分散して設置された、約2万もの無線アンテナで構成されています。
LOFARが受信するのは、最大6メートル波長、約50MHzの電波です。
このような低周波の電波は、地球を取り巻く自由電子の層である電離層によって弾かれてしまいます。
それはまるでプールに沈んだものを、波打つ水面越しに見ているようなものです。
この電離層のせいで、地上から低周波数で宇宙を観測することは非常に困難だったのです。
しかし、今回の研究グループは、スーパーコンピュータと電離層擾乱による視界の歪みを補正するアルゴリズムを使用して、4秒ごとに観測データを再構築させたのです。
LOFARの観測時間は、合計で256時間にわたって行われましたが、その間ずっとこの膨大な補正を実行し続けたのです。
こうして、初めて夜空の広い範囲を低周波によって見ることが可能になりました。
オランダのライデン天文台の天文学者ヒュッブ・ロッテリング(Huub Röttgering)氏は、「長年のソフトウェア開発の末に、この観測がうまくいったのを見るのはとても素晴らしいことです」と述べています。
電離層の補正がうまく言ったという成果には、もう1つ、電離層自体の研究を推し進める重要な意味もあります。
また、これまでにない50MHz未満の領域で観測が可能になったことで、これまで未発見だった未知の物体を観測できる可能性も出てきます。
これは珍しい夜空の景色を映しただけでなく、さまざまな研究に影響を与える偉業なのです。