生後9日目にはパンチが打てるように!
シャコの幼生を観察するのは容易ではありません。
幼生はわずか数ミリ程度しかなく、捕まえるにはライトを使って専用の網に追い込むのですが、他の生き物の幼生も一緒になだれ込むので、見つけるのが重労働です。
さらに、カメラにちゃんと映るように幼生を固定する技術も必要でした。
研究主任のジェイコブ・ハリソン氏は「具体的な調査の前に、体長4ミリのシャコを爪楊枝の先に接着剤で軽く貼り付け、特注の器材に乗せ、カメラのレンズが捉えられる位置に固定しなければなりませんでした。
幼生の採取から観察準備の完了までに約1年を要しました」と言います。
今回の調査では、フィリピン近海を原産とする「フトユビシャコモドキ(学名:Gonodactylaceus falcatus)」を対象に、ハイスピードカメラと高解像度レンズで撮影しました。
観察の結果、シャコの幼生は、孵化後わずか9日でパンチを繰り出し始めることが分かったのです。
映像を分析してみると、パンチを繰り出す直前に、付属肢がバネのように折り曲げられて、弾性エネルギーを蓄える様子が見られました。
その直後、シャコは付属肢を固定していたラッチを解放し、一挙にエネルギーを放出してパンチを繰り出したのです。
実際、この動きのメカニズムは成体のシャコとほぼ同じで、ただサイズや威力がスケールダウンしているだけでした。
一番の驚きは、半透明の体を通して、内部筋肉の収縮する様子が観察できたことです。
「筋肉の収縮は成体のシャコにしか見られないと思っていたので、非常に驚きました」とハリソン氏は話します。
約1ミリの付属肢は、孵化後の幼生が卵黄の蓄えを使い果たし、水中に出た直後に発達し始めます。
それから幼生が砂つぶ以下の小さなエサを食べ始めた9〜15日目に初めて、付属肢が完全に機能するようになっていました。
パンチ力はさすがにまだ弱いですが、スピードは大人顔負けの速さに達していたとのこと。
シャコは生まれながらのパンチャーだったようです。