私たちの先祖は「細胞に数十個の核を持っていた」可能性がかなり高い
地球に最初の生命がうまれてしばらくくすると、生物の系統は大きく2つに別れました。
1つは細菌と呼ばれるグループで、現在の地球でも様々な場所に存在するありふれた生命です。
そしてもう一方は古細菌と呼ばれるグループ。
こちらは超高熱、超高塩濃度、超酸性といった地球の初期の過酷な環境に適応したマイナーなグループです。
そしておよそ15億年前、ある古細菌が酸素呼吸能力を持った細菌(ミトコンドリアの先祖)を丸飲みして内部で飼い始めることで、新たな1つの生命体「真核生物」に進化します。
真核生物は、今を生きる全ての動物・植物・真菌類の祖先です。
既存の説では、この最初の真核生物は1つの細胞の中に1つの核と複数のミトコンドリアを持つ存在として描かれてきました。
しかしこの常識には大きな欠点がありました。
飲み込んだ古細菌と飲み込まれた細菌(ミトコンドリア)は遺伝的にもかなりの違いがある生物であり、簡単に共生関係が構築されるハズがないのです。
ですがこの疑問については、これまで誰も突っ込んだ研究を行おうとはしませんでした。
そのため1細胞1核+複数のミトコンドリアは誰もが持つ真核生物の共有祖先のイメージとして定着していきました。
ですが、そんな漠然とした先祖像に対して今回、ドイツのハインリッヒ・ハイネ大学の研究者たちは異議を唱えました。
彼らが真核生物の主要な16グループに含まれる106系統の代表的な種を分析したところ、全てにおいて、1つの細胞の中に複数の核を持つ「多核細胞」を生成する能力があることを突き止めます(単細胞と思われがちなアメーバ属の中には多核状態になるものがいる)。
現代に生きる真核生物のどのグループにも多核細胞を作る力があるなら、真核生物の起源となる単細胞生物もまた、多核であった可能性が非常に高くなります。
一見してこじ付けに思える論法ですが、目などの身近な器官に置き換えるとその正しさがわかります。
現在の地球には「目」を持つ多くの動物が存在しますが、全ての動物の目は同じ光を感知するタンパク質(オプシン)を含んでいます。
また進化的に遠い脊椎動物の目もタコの目も、ともにクリスタリンと呼ばれる透明なタンパク質で水晶体を構成しています。
この事実は、目はそれぞれの種で独立して誕生したのではなく、彼らの共通の祖先が目を獲得した結果であることを示します。
しかし、いったいどのような経緯で、単細胞かつ多核な生命が生じたのでしょうか?
以降では、ミトコンドリアの吸収から現代的な真核生物の誕生までの過程をたどっていきます。