「瞳孔が大きいほど、知能が高い」という結果に
研究チームは当初、記憶作業にかかる精神的労力の度合いについて調査しており、その指標として「瞳孔」を測定していました。
人の瞳孔は光の他に、心刺激や精神疲労によっても大きさが変わります。
この測定法は、アメリカの心理学者ダニエル・カーネマン氏(87)が1960~1970年代に確立した手法です。
そして測定中に、瞳孔サイズと知能の関連性が示唆されたため、チームは、ジョージア州・アトランタ在住の被験者500人(18~35歳)を対象に本格的な調査を開始。
まず、被験者の前に全面白のスクリーンを置き、安静時の目を約4分にわたりアイトラッキングし、瞳孔の直径の平均サイズを出しました。
結果、直径のサイズ幅は2~8ミリでした。(ちなみに、瞳孔サイズが光刺激にあまり左右されないよう、薄暗い部屋で測定されています。)
次に、被験者の知能を測定するため、新たな情報を獲得し、すばやく処理する「流動性知能」と、情報を一定時間にわたり保持する「ワーキングメモリ容量」、集中力の持続力を示す「注意制御能力」のテストを実施しました。
これを瞳孔サイズと照らし合わせた結果、瞳孔の平均サイズが大きい被験者ほど、各知能のスコアが高いことが示されたのです。
研究チームは「各テストの最高得点者と最低得点者の瞳孔を比較すると、見た目で分かるほどサイズに差があった」と話しています。
では、なぜ瞳孔が大きいほど、知能が高くなるのでしょうか。
この点について、研究チームは「青斑核(せいはんかく、Locus ceruleus)という脳部位が関係しているのではないか」と推測しています。
青斑核とは、脳幹の上部に位置し、他の脳領域と広く接続されている神経核のことです。
青斑核は、神経伝達物質やホルモンとしても機能する「ノルアドレナリン」を分泌し、これは脳の注意力や衝動性、記憶力の制御に大きく関わっています。
また、青斑核が機能不全に陥ると脳が組織的に働かなくなり、認知症やADHD(注意欠如・多動症)などの原因にもなります。
実は、この脳の組織的活動はとても重要で、何もしていない時、例えばパソコンの真っ白な画面を何分も見続けている時でも、脳は組織力を維持するためにエネルギーを費やしているのです。
一方で、瞳孔サイズと知能の関係はまだ調査段階であり、青斑核が関与しているかどうかも断定できません。
それでも研究チームは、仮説の一つとして、「安静時の瞳孔が大きい人は、青斑核による脳活動の制御力が大きく、それが認知機能の向上につながっている可能性が高い」と考えています。
「目は心の窓」と言われますが、これとは別に、「頭脳の窓」でもあるかもしれません。