小さなイカの多様化は「ポスト恐竜時代」に始まっていた
本研究主任のグスタボ・サンチェス氏(広島大学)は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)、アイルランド国立大学ゴールウェイ校(National University of Ireland Galway)とともに、インド太平洋、地中海、大西洋の全域からダンゴイカとミミイカ、計32種を採集しました。
次にチームは、全種のゲノム解析を行い、種間の遺伝的変異を調べて、それぞれの進化的関係や分岐した時期を推定しました。
その結果、ダンゴイカとミミイカは、約6600万年前に別々のグループ(科)に分かれたことが判明したのです。
これは、恐竜の大半が消えた大量絶滅イベントによって、現代につながる水生生物が急速に多様化したことと一致します。
それまでは、両者は共通祖先を持つ同じ生物だったようです。
またダンゴイカの方は、ダンゴイカ亜科(Sepiolinae)、ボウズイカ亜科(Rossinae)、ヒカリダンゴイカ亜科(Heteroteuthinae)の3つに分岐しています。
さらに研究チームは、3つの亜科の中で最大規模を誇るダンゴイカ亜科が、インド太平洋グループと、地中海・大西洋グループに分けられることを発見しました。
この分裂は、約5000万年前に起きたテチス海の消滅という生物地理学上の大イベントと重なっており、それが原因と思われます。
本研究のもうひとつの興味深い点は、発光能を持つダンゴイカの発光器官の進化に注目したことです。
ダンゴイカの発光は「カウンターイルミネーション」といって、捕食者から身を隠す役割があります。
夜間の水中では上から月明かりが射すことで、水面近くのダンゴイカはシルエットとして浮かび上がり、下にいる天敵から丸見えになってしまいます。
そこで光を放つことで月明かりに同化し、下にいる天敵から見えなくなるのです。
そして今回チームは、ダンゴイカ亜科の祖先が、発光をもたらす共生バクテリアを収納する器官を持っていた可能性が高いことを発見しました。
この発光器官は今も多くの種に見られますが、インド太平洋グループと地中海・大西洋グループでは失われています。
同チームのダニエル・ログザー氏は「ダンゴイカ目の約半分はまだ進化的関係を調べなければなりません。それでも本研究によって、ダンゴイカとミミイカを正確に分類するための信頼性の高い基盤が得られたことは確かです」と述べました。
ダンゴイカ目は現時点で約70種が見つかっています。
その多様化の秘密は恐竜亡き後の世界に隠されているようです。