ブラックホールに物質が飲み込まれると宇宙のエントロピーは下がる?
まず今回の話を理解するために、エントロピーについて知っておきましょう。
エントロピーとは、日本語ではよく「煩雑さ」と訳されます。
「煩雑さ」といわれてもイマイチぴんと来ませんが、これは時間が経つと部屋が散らかるといっているのと同じ意味です。
もう少し厳密に表現すると、世界は自然のままに放っておくと「秩序から無秩序に向かっていく」ということを意味します。
そして、無秩序に再び秩序を与えるためには、エネルギーを消費して仕事をしなければならないのです。
たとえば、あなたが部屋でダラダラと1カ月以上過ごした場合、その部屋はかなり散らかるでしょう。
これは放っておいてもきれいに整頓された部屋には戻りません。気合を入れて掃除という仕事をしなければならず、そのためにあなたかお母さんが多くのエネルギーを消費することになります。
そのため理系の人は、人生で必ず一回は散らかった部屋を見て「部屋のエントロピーが増大している」という冗談をいいます。
では、物理学におけるエントロピーの増大とはなんなのでしょうか? 何が散らかるのでしょうか?
それはエネルギーです。
エネルギーとは熱であり、高温ほどエネルギーが高い状態を意味します。
温度が高いというのは、その場所にある分子の運動エネルギーが高いということです。
たとえば淹れたてのホットコーヒーは、液体の分子が高い運動エネルギーを持っています。
しかし、放っておけばコーヒーは冷めてしまいます。これは分子の運動エネルギーが部屋の中に散らばってしまうためです。
もとの熱いコーヒーに戻すには、ガスや電気を消費して、再び加熱しなければなりません。
電気代やガス代を消費せずに、コーヒーをもとの熱い状態に戻すことはできません。
世界では秩序のある状態ほど価値が高いと見なすことができます。
つまりエントロピーの増大とは、ただ散らかすというだけでなく、世界はどんどん利用価値の低い状態に変わってしまうことを指しているのです。
こうした問題を、物理学では「エントロピーの増大則」または「熱力学第2法則」と呼びます。
これはもうちょっとネットで一般的な表現でいうなら「等価交換の原則」と言い換えることもできるでしょう。
無秩序に散らかった状態のものを秩序のある状態に戻すためには、他の秩序を持ったエネルギーを消費する(そちらを無秩序に変える)必要があるというわけです。
秩序の等価交換で、価値を保っているのが世界の原則なわけです。
ところが、広い宇宙を見渡したとき、こうした法則に従わずに済みそうな、ある特殊な存在が見つかりました。
それがブラックホールです。
ブラックホールはあらゆるものを吸い込んでしまい、1度事象の地平面の内側へ吸い込んだ物質は外へ逃しません。
エントロピーの増大した物質を飲み込んだら、その分のエントロピーは永遠に世界から失われることになってしまいます。
これはつまり、ブラックホールが世界のエントロピーを下げていることにならないだろうか? というわけです。