ブラックホールはエントロピーを表面に溜め込んでいる?
こうした問題を解決するには、ブラックホールが何らかの方法で吸い込んだ物質のエントロピーを溜め込んでいると考える必要が出てきます。
しかし、ブラックホールはどうやってエントロピーを保存しているのでしょうか?
この問題を解決させるきっかけとなったのは、「ホーキングの面増大積則」です。
ホーキング博士はある夜、ブラックホールの表面となる事象の地平面がどうやって形成されるか考えていたとき、突然ブラックホールの表面積は増える一方で減ることはないはずだ、思いついたのです。
この考え聞いた、当時プリンストン大学の大学院生だったベッケンシュタインは、ブラックホールの表面積がある物理法則とそっくりであることに気が付きました。
それが「エントロピー増大則」です。
たしかに増える一方で減らないブラックホールの表面積と、増える一方で自然に減ることがないエントロピーは、多くの類似性を持っていました。
そこで、ベッケンシュタインはなんとブラックホールの表面積は、ブラックホールのエントロピーの尺度であるという考えを発表するのです。
ホーキング博士は最初、この大学院生のアイデアについて、自分の発見を勘違いしていると批判的だったようです。
しかし、ホーキング輻射という現象が理論的に発見されたことで、最終的にはベッケンシュタインの考え方は基本的には正しいということが認められたのです。
こうして、ブラックホールはエントロピーを持っていて、それは表面積に比例していると考えられるようになりました。
しかし、この考え方は非常に奇妙で不思議なものでした。
なぜなら、一般的に熱力学においてエントロピーという値は体積に比例するからです。
そして、これはもちろん理論的な予想に過ぎませんでした。
事実かどうかはわりません。これを物理学において事実と認めるためには、実際に観測して証拠を掴まなければならないのです。
物理学は世界を観る学問なので、頭の中で考えた理論予想だけでは、それがどれほどもっともらしい理屈でも絶対に認めることはありません。
では、どうすればこのことが事実だと観測で証明できるのでしょうか?
ここからが本題です。